たくさんの店を知るよりも、季節ごとに通う、馴染みの店を数軒だけ。旬の味を自分のペースで楽しんで、居心地のいい一隅で安らぐ。そんな、京の“ええ店”はいかがですか?

100種類の京料理で客を迎える本格板前割烹

撮影/大道雪代
「松茸と鮑(あわび)のおひたし」2500円。秋の香りがする前菜。菊の花とほうれん草を添えて彩りよく。
「ぎんなんコロッケ」1300円。銀杏をペースト状にして衣を付けてコロッケに。

「自分の行きつけを見つけて季節ごとに通えば京都はより特別な場所になります」

風情ある祇園街も、令和に入ってインバウンド客で賑わうなど様子は変わった。けれど、根底にあるもてなしの心や、凛と美しい街並みは健在だ。

「行きつけの店を一軒持ち、季節ごとに旬の味を楽しむのがお薦めです」と言うのは、華道「未生(みしょう)流笹岡」家元・笹岡隆甫さん。華道も含めた京都文化を世界に発信する生粋の京都人だ。祖父に連れられて20代から料理屋を訪ねる機会もあり、食への造詣も深い。馴染みの店をつくり食を楽しむにはどうすればいいか、極意を尋ねた。

一見で予約できる間口の広さ

「話題の店は、何か月も先まで予約が取れなくなります。門戸の広いお店を見つけるのが、京都の食を楽しむ近道です」
 
この日訪れた『祇園おかだ』は、祇園街での経験も長く地元の信頼が厚い実力派割烹。けれど、一見お断りではなく旅行者も快く受け入れる。少人数なら数日前の予約でも、運よく入店できることもある。通えば京都との距離はぐっと縮まる。
 
店主の岡田孝二さんは、京都の名割烹で腕を磨き祇園町南側で自店を開いた。

秋なら松茸、銀杏、ぐじ。自分好みの料理に仕立ててもらう

自家製の飛龍頭とぐじを椀種に、ほうれん草と黄柚子を添えた「飛龍頭とぐじのお椀」2500円。

開業から21年、奇を衒わぬ王道の京料理を貫いてきた。驚くのは品書きの多さである。

「季節の魚介を調え、お客様のお好みに仕立てます。前菜には野菜料理、〆には寿司もと考えたら、こんな数になりました」

造りや焼き物、蒸し物、揚げ物といった定番料理は80品以上、本日のお薦め料理も20品ほどを、手書きの黒板で案内する。

「もしも迷ったら、季節の料理をお任せでお願いするのもいいですよ。秋なら松茸、銀杏や脂ののったぐじ(甘鯛)。岡田さんが薦めてくれるものに、間違いはありません」と笹岡さん。

慣れてきたら、同じぐじ料理でも、造りか塩焼きか、お椀がいいかと、相談して決めていく。京都の割烹ならではの、そんなやりとりが、たまらなく心地よい時間になっていくのだ。

2016年にシャンパーニュ騎士団のシュヴァリエに叙任された笹岡さん好みの銘柄も揃う。ボトル1万3500円〜。

祇園おかだ

白木のカウンターが清々しい店内。

京都市東山区祇園町南側570-6
電話:075・551・3200
営業時間:17時〜23時
定休日:日曜、祝日、第3月曜
交通:京阪本線祇園四条駅下車、徒歩約7分

笹岡隆甫さん(ささおか りゅうほ・華道「未生流笹岡」家元) 
昭和49年京都生まれ。京都大学卒業。3歳より祖父二代家元笹岡勲甫の指導を受け、平成23年、三代家元を継承。令和6年、地方教育行政功労者表彰を受賞。主著は『いけばな』(新潮新書)。

取材・文/中井シノブ 撮影/大道雪代

サライ11月号大特集は『京都「美の神髄」』

 

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