
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)で顕著なのが、お笑い界からのキャスティングの多さでしょう。すでに俳優としての地位も確立している「ネプチューン」原田泰造さん(三浦庄司役)をはじめとして、数多くの芸人が演者として登場しているのが話題になりました。主だった人を列挙してみます。
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鉄拳(礒田湖龍斎)、「ダチョウ倶楽部」肥後克広(彫師の四五六)、「ピース」又吉直樹(狂歌師の宿屋飯盛=やどやのめしもり)、サルゴリラ(吉原の客)、クールポコ(餅つきをする職人)、「3時のヒロイン」福田麻貴(日本橋で店を営む女将)、ひょうろく(松前藩主の弟松前廣年)、「コロコロチキチキペッパーズ」ナダル(表坊主)、有吉弘行(服部半蔵)、「U字工事」(栃木の豪商)、元「和牛」川西賢志郎(上方の地本問屋・大和田安兵衛)、「野性爆弾」くっきー!(勝川春朗=後の葛飾北斎)、「どぶろっく」江口直人(生臭坊主)、コウメ太夫(水茶屋「難波屋」の主人)、マキタスポーツ(ていに漢籍を教えた僧)、芋洗坂係長(徳川家基の鷹狩で勢子を務めた吾作)、「カミナリ」竹内まなぶ(吉原を訪れ「倹約」を呼びかける貧乏侍)、「爆笑問題」太田光・田中裕二(観相家の大当開運=おおあたりかいうんとその知り合い)、丸山礼(次郎兵衛の妻とく)、「吉本新喜劇元座長」川畑泰史(大坂の書物問屋柏原屋)など。
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編集者A(以下A):こうやって一覧にしてみると、壮観ですね。昨年の大河ドラマ『光る君へ』でも、「ロバート」の秋山竜次さんが有力貴族の藤原実資を、「はんにゃ」の金田哲さんがこれも有力貴族の藤原斉信を好演して注目を集めましたが、今年は連射のごとく毎週のように誰かしらが登場する感じでした。制作陣の意図はあるのでしょうが、大河ドラマファンとしては、ここからいかりや長介さん、あるいは片岡鶴太郎さんのような名優が輩出されるかどうかに、つい関心がいってしまいます。片岡鶴太郎さんは『べらぼう』に絵師の鳥山石燕役で出演しましたが、1991年の『太平記』での北条高時役での大河ドラマデビューは鮮烈でした。
I:特に第22回「鎌倉炎上」が大河ドラマ史上屈指の「神回」として知られているのですよね。
A:そうです。今でもNHKオンデマンドで振り返ったりするくらいの「神回」です。北条高時といえば鶴太郎さん、鶴太郎さんといえば北条高時というくらいのインパクトでした。
I:なるほど。ところで、いかりや長介さんといえば、ドリフターズのリーダーとして、土曜の午後8時に16年にわたって生放送の公開番組として一世を風靡した『8時だョ!全員集合』ですよね。この番組が終了したのが1985年9月。いかりや長介さんの、大河ドラマデビューは、1987年1月に放送開始された『独眼竜政宗』です。大河ドラマ64作のなかで、平均視聴率39.7%という記録を打ち立てた「キングオブ大河」の名作です。
A:はい。解説ありがとうございます。当時私は10代後半でしたが、いかりやさんが演じた伊達家家臣鬼庭左月斎役はインパクト大でした。第13回「人取橋」の回、伊達家が圧倒的に不利な状況におかれた「人取橋の合戦」で70代の老骨に鞭打って「今生の別れにひと働き」と黄色い頭巾をかぶって戦場に散る回は、今も鮮明に記憶に刻まれています。
I:いかりやさんは、それまでにも「ドリフ映画」で演技経験があったのですが、著書『だめだこりゃ』(新潮文庫)では、「ドリフ映画」での経験について、「あれはコントの延長みたいなもので演技と呼べるものではなかった」と述懐しています。
A:『だめだこりゃ』では、俳優業に進出する際に「当時の私は五里霧中であった。悩める状態に置かれていた。しかし悩もうにも悩めなかった。なにしろ何を悩んでいいか、それすらわからないのだ」と当時の苦境を吐露していますね。俳優業に対する並々ならぬ意気込みを感じる記述です。
I:いかりやさんは、『踊る大捜査線』の和久平八郎刑事役を演じていますが、共演の織田裕二さんに師事したことを『だめだこりゃ』の中で触れていますね。俳優業では先輩にあたる織田裕二さんにこと細かに教えを請うたというくだりです。私はいかりやさんほどの方が、ここまでするのか、と目頭が熱くなりました。
A:いかりやさんは、『取調室』シリーズでの水木正一郎刑事役も当たり役でした。「俳優業」は1986年から亡くなった2004年まで続けました。その一方で、晩年まで『ドリフ大爆笑』にも出演していました。かなり多忙だったと思うのですが、もう一度大河ドラマでその雄姿を見たかったなあ、と『べらぼう』のお笑い界からの出演ラッシュを見て思うのですよ。若かった私にとって、いかりや長介さんと片岡鶴太郎さんの大河ドラマでの演技は強烈でした。今となっては、リアルタイムで視聴できたことに感謝の思いです。
I:なるほど。
A:そして、今年のことなのですが、「野生爆弾」のくっきー!さんのキャラは若かりし頃はハチャメチャなキャラクターだった片岡鶴太郎さんを髣髴させる感じがするとか、元「和牛」の川西賢志郎さんだとか、ナダルさんだとか、別の作品でも見たい! という方もいましたが、加齢で感受性が鈍くなっているのか、いかりやさんや片岡鶴太郎さん登場時のようなインパクトを感じることはありませんでした。
I:(笑)。きっと若い視聴者の中には、ビビッときた人はいたはずですよ。何年かしたら『べらぼう』が大河デビューでした、という方が出るはずです!
A:そうですよね。そういうのもまた、楽しみですよね。長生きしてそういうの見届けたいですね。
●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり










