迂闊に人生を語り、昔の経験を口にすれば「老害」と揶揄される昨今。しかしながら、たとえ陰で「老害」と呼ばれようとも、申しておかなければならない「一言」はあるもの。さりとて、長々と諭してみたところで、相手の心に伝わるとは限りません。貴重な時間が、無駄になってしまうこともしばしば。

ならば、先人が残した言葉や金言を用いることで、あなたの真意や願いが相手に伝わる良案となるかもしれませんね。そんな時に役立つ言葉をご紹介いたしましょう。今回の座右の銘にしたい言葉は「和衷協同」 (わちゅうきょうどう)です。

「和衷協同」の意味

「和衷協同」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「心を合わせ、互いに協力して事をすること」とあります。「和衷」は「心を一つに合わせること」、「協同」は「力を合わせて共に行動すること」を表します。

かつて会社でチームを率いた経験のある皆様、あるいは地域活動で様々な人と関わってきた皆様なら、この「心」を合わせることの難しさと、それが実現した時の大きな達成感をよくご存じのはずです。表面的な調整ではなく、心の底からの理解と共感が伴う協力関係。それが「和衷協同」の目指すところなのです。

「和衷協同」の由来

「和衷協同」の語源は中国の古典『書経』(しょきょう)に見られる「和衷」の語に遡ります。日本では、明治時代の政治家たちが、近代国家建設という大きな目標に向けて国民の団結を呼びかける際に使用したことにあります。西洋の文明を取り入れながら、日本独自の国づくりを進めるには、国民が心を一つにして協力することが不可欠だったのです。明治憲法の発布時に出された勅語でも使われた言葉で、国民が心を一つにして協力することの大切さを説いています。

例えば、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本の企業が世界をリードする存在になれたのも、この「和衷協同」の精神が組織の隅々にまで浸透していたからだといえるでしょう。お互いを信頼し、助け合い、共通の目標に向かって邁進する。これは、経済発展だけでなく、地域コミュニティの維持や家族の絆にも通じる、日本人が大切にしてきた「和の心」を具現化した言葉なのです。

「和衷協同」を座右の銘としてスピーチするなら

この言葉をスピーチで使う際に最も大切なのは、「過去の功績自慢にならないこと」、そして「未来への希望を込めること」です。「私が皆と協力して成し遂げた」という過去形ではなく、「これからも皆と心を合わせて、よりよい未来を築きたい」という未来志向で語ることで、聞く人々に共感と希望を与えることができます。

以下に「和衷協同」を取り入れたスピーチの例をあげます。

周囲に支えられて生きていることを実感するスピーチ例

私の座右の銘は「和衷協同」という四字熟語です。心を一つにして協力し合うという意味で、若い頃からこの言葉を大切にしてきました。

振り返れば、会社員時代は様々なプロジェクトに携わりました。最初は意見が合わず、チームがバラバラになりかけたこともあります。でもそんな時、この「和衷協同」という言葉を思い出すのです。表面的に意見を合わせるのではなく、まずは互いの考えをしっかり聞く。そして共通の目標を見出す。そうすることで、本当のチームワークが生まれると学びました。

定年後は地域の防災活動に参加していますが、ここでも「和衷協同」の精神が生きています。年代も職業も違う人たちが集まっていますから、最初は戸惑いもありました。けれども「地域を守りたい」という思いは皆同じです。その共通の思いを大切にすることで、自然と協力の輪が広がっていきました。

この言葉は、私に「人は一人では生きられない」ということを教えてくれました。家族も、仕事仲間も、地域の方々も、支え合ってこそ豊かな人生が送れるのだと実感しています。これからも「和衷協同」の気持ちを忘れず、皆さんと一緒に歩んでいきたいと思っています。

最後に

「和衷協同」は、人生経験豊かなシニア世代だからこそ語れる座右の銘です。長年にわたり、職場で、家庭で、地域で、多くの人々と関わってこられた方々は、協力することの大切さも、難しさも、そして喜びも知っておられるでしょう。その経験があるからこそ、この言葉の本当の意味が理解できるのです。

シニア世代の皆さんの経験と知恵は、これからの社会にとって貴重な財産です。「和衷協同」の精神で、これからも周囲の人々と手を取り合いながら、豊かな人生を歩んでいってください。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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