文/鈴木拓也
16年にわたりミシュラン二つ星を獲得している、銀座の名店「てんぷら近藤」。
店主の近藤文夫さんが、このたび上梓したのが『完全版「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』(世界文化社)だ。
本書は、家庭で「極上天ぷら」を作るためのガイドブック。50年余り天ぷら作りにかかわってきた達人が培ってきたノウハウを、惜しみなく披露した1冊に仕上がっている。
フライパンがあればいい
本書の冒頭で近藤さんは、天ぷらとは「蒸し料理」だと説く。なぜなら、「ころもという膜で素材を包み、熱い油の中で『素材自身の水分で蒸すように火を入れる』料理」だからという。薄力粉をまぶしてからころもで包むのも、油から取り出して余熱を加えるのも、素材を蒸すための処置。だからでき上がりはみずみずしく、本来の風味が生きる絶品となる。
また、調理道具は、直径26~28cmの厚手のフライパンが最適だとも。これは、面積が広くて一度にたくさん作れるメリットがあるから。天ぷら店が使う専用鍋と比べて油量が少ないので、油温の変動が大きくなりやすいが、適温より高めに熱しておけばカバーできる。油は3cmの深さがあれば充分。ほかにも、ころもの作り方や余熱調理の仕方を含め、目から鱗のコツが解説されている。
もちろん、レシピも充実の一言。野菜、きのこ、魚介の天ぷら、かき揚げにおかず天ぷらと、数十品目の作り方が、工程ごとに写真がついてわかりやすく説明されている。
以下、参考までに2品のレシピを紹介しよう(工程写真は割愛)。
一本揚げで持ち味が生きる「アスパラガスの天ぷら」
「てんぷら近藤」流のアスパラガスの揚げ方は、長いからと半分に切らないのが基本。その理由は、切ってしまうと、油の中で切り口から水分が流れてしまうから。硬い根本の部分は折り取るが、一本そのままで揚げる。
1. アスパラガスを手にのせ、もう片方の手で根元に近い部分をしならせて自然に折る。折った断面はいびつなままでOK。
2. はかまは、硬ければ包丁がピーラーでむく。揚げ油を火にかけ、185℃に温める。
3. 薄力粉をまぶし、箸でトントンとはたいて余分な粉を落とす。
4. ころもにくぐらせる。
5. 185℃に温めた揚げ油に入れる。あまりさわらないようにして1分ほど揚げる。
6. 泡が落ち着いてきたら裏に返す。
7. 30秒ほどで、ころもから出る泡が少なくなり、はねる音が低くなれば揚げ上がり。取り出して紙にのせ、油をきる。
揚げてなおフレッシュな味わい「かきの天ぷら」
江戸前の天ぷらといえば魚介だが、本書にも車海老、するめいか、あなご、キスなどの天ぷらが掲載されている。ここでは「かき」を取り上げる。
1. かきは、殻の膨らんだ面を下に、ちょうつがいを手前にしてまな板に置く。右側の真ん中にある殻のすき間に貝むきを強く差し込み、前後に動かして貝柱を上の殻からはがす。
2. 上の殻を強く押し上げて完全に開く。身の下に貝むきを差し入れ、すくい取るようにして貝柱を殻からはずす。
3. ボウルに水をため、むき身に水をかけて汚れをざっと落としてから、水の中でふり洗いする。
4. ペーパータオルで挟んで水分を拭き取り、表面が乾くまで4~5分おいて下ごしらえを終える。揚げ油を火にかけ、180℃に温める。
5. 薄力粉をまぶし、箸でトントンとはたいて余分な粉を落とす。
6. ころもにくぐらせる。
7. 180℃に温めた揚げ油に入れ、1分近くじっくりと揚げる。
8. 裏に返し、再び1分近く揚げる。再度裏に返して火力を少し強める。
9. 泡が大きくなり、かきが浮いてきたら揚げ上がり。取り出して紙にのせ、油をきる。目指すのは、ミルキーな風味と柔らかさにあふれた揚げ上がり。
ここまで読まれ、「作ってみたい」と思ったら、1冊取り寄せてチャレンジしてほしい。きっと、料理生活がより充実したものとなるはずである。
本書内写真:日置武晴、ローラン麻奈
【今日のおいしい1冊】
『完全版「てんぷら近藤」主人のやさしく教える天ぷらのきほん』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。