文/鈴木拓也

画像はイメージです。

日本人の国民性を語るキーワードとして、勉学や仕事に励む「勤勉」が、よく挙がる。内閣府の調査でも、他国から見た日本人のイメージは、勤勉がトップになっている。たしかに多くの日本人は、よく学び、よく働き、それが先進国へと発展してきた一要因ではあるのだろう。

しかし、勤勉さも度をこすと、自分に厳しすぎて人生がつまらなくなったり、心を病むことにもなりかねない。若いうちは、そうした頑張りが人生の糧になることもあるが、定年前後の年代になってもその路線では、いかにも辛い。

よって、人生後半戦は「ゆるく⽣きる」ほうがいい―そう言うのは、高齢者専門の精神科医、和田秀樹さんだ。和田さんは、著書『ゆるく生きれば楽になる 60歳からのテキトー生活』(河出書房新社)の冒頭で、この生き方こそ、高齢者が「元気で豊かに暮らせるための秘訣」だと力説する。

定年で「身軽になった」と考える

和田さんは1960年生まれ。子どものころは、「勉強ができるのはもちろんだけれどそれだけではいけない」などと、多方面に努力を重ねることが求められた世代だったという。その少し上の団塊の世代も、受験戦争に揉まれ、似た価値観を持って人生を駆け抜けた人たちであった。

そのせいか和田さんの世代や団塊の世代には、「自分に厳しくすること、自分を律する人が立派」という考えの持ち主が多い。

しかし、コロナ禍ではこれが裏目に出る。本書では次のように書かれている。

コロナの時代になったときに「外で食事してはいけない」「人と喋る機会を持ってはいけない」と必要以上に真面目に自分を縛ってしまった人たちがいます。
それまでは、旅行にも出かけてよく体を動かしていたのに、多くの高齢者は外に出かけてはいけないと自粛して動かなくなってしまったために、足腰が弱くなったり、最悪の場合、要介護状態に陥りました。(本書43pより)

この時期は、全世代が息苦しい雰囲気を感じていたのはたしか。しかし、だからこそ「自分自身は息苦しくならない方法を考えるべき」であったと説く。

仕事の考え方も同様で、定年で否応なしに仕事を離れることを、どう捉えるかが大事となる。和田さんがすすめるのは、「楽になった」「身軽になった」と思えるゆるい考え方。定年まで、まだ間があるなら、「最後まで手を抜かずに一生懸命働こう」ではなく、退職した後の自分の人生を第一に考えることを優先する。「人生100年」といわれる昨今、定年後の人生は長いのだから。

人に嫌われないよう努力するのは無駄

和田さんは、人間関係においても、ゆるい生き方でいくことをすすめる。

例えば、「人に嫌われることを恐れすぎない」。

それまで生真面目に生きてきた人は、とかく周囲の人に気を遣いがち。また、相手にいいことをしたときに、向こうからの感謝をつい期待してしまう。

しかし実際は、他人はそれほどあなたのことを気にしてはいないものだ。

だから、人のことでは、「あまり気にしないくてもいい」が基本方針。相手が触れてほしくない「地雷」だけは注意しておく。

それに、頑張ったところで、「人に嫌われないようにする」こと自体が無理な相談だという。和田さんは、次のように説明する。

誰かの嫌がることをしないようにしても、それがかえって気に食わないという人もいます。
そもそも、嫌いになる理由はさまざまです。顔が気に入らないとか、東大出だから気に食わないとか、自分の力の及ばない理由で嫌われることもあります。外から窺い知れないコンプレックスやトラウマに関わっているとすれば、もはや打つ手はありません。(本書125~126pより)

同じように、「迷惑をかけないようにする」と考えすぎるのも禁物だとも。社会の中で生きていれば、誰かにちょっとした迷惑をかけてしまうことはどうしても起きる。なので、ゆるい生き方でいくなら、その時はその時で、相手に頭を下げればいい話。これは、恥ずかしいことでも、自分の価値を下げることでもなく、むしろ賢い生き方であると、和田さんは述べる。

自身の健康管理もゆるく考えよ

健康ブームやコロナ禍に影響され、健康を気にかける人が増えた。健康診断を毎回受け、数値が悪ければ、正常値に戻そうと頑張る人も多い。

和田さんは、健康についても「ゆるく」考える視点で、「数値をいちいち気にする必要はありません」という。例えば、最高血圧が150になったとしても、血圧は1日の中でも大きく変動するし、その他の要因によっても変わる。一時的な診断結果で気に病むより、健康かどうかは自身の判断で決めるべしとする。

かく言う和田さんは、最高血圧が170、血糖値は300ぐらいあり、心不全も患っているという。健康診断の基準では不健康であろう。それでも、「毎日元気で、非常に忙しく仕事をしている」そうだ。

そんな和田さんは、心不全の治療で利尿剤は飲んではいるが、「どうにも不快な症状」がないかぎり、病院には行かないよう心がけているそう。言い換えれば、我慢できないほどの不快さであれば、前向きに医者にかかって苦痛を取り除いてもらう。

痛いこと、苦しいことを我慢してもいいことはありません。なるべく早く自分が楽になる方法を探すこと、それがゆるく生きる健康法の大切なポイントです。(本書192pより)

なるほど、健康診断の結果に一喜一憂するより、最初からゆるく自分の身体と向き合ったほうが案外長生きするかもしれない。

* * *

ずっと真面目に生きてきて、今日から「ゆるく」と言われても、難しいかもしれない。和田さんは、そこもあえて「ゆるく」考え、まず1つできればいいと諭す。定年にさしかかり、これまでの人生にふと疑問を感じた人には、ぜひ読んでほしい1冊だ。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『ゆるく生きれば楽になる 60歳からのテキトー生活』

和田秀樹著
定価968円
河出書房新社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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