近年になって登場した新しい日本語は、英語ではどのように言うのでしょうか? ひとつのことばを別の言語に置きかえてみると、別の世界が広がって見えることがあります。今回は、現代的なことばの使い方をひもといていきましょう。
さて、今回ご紹介するのは「推し活」の英語です。

「推し活」って英語でなんて言うの?
日本語の「推し活」はオタク文化などとも絡み合い、ぴったりの英語表現をみつけるのは難しいですが、広く使われているフレーズで、
“I’m a big fan of ~.”
(〜の大ファンなんです。)
と言い換えることができます。
たとえば、
“I’m a big fan of Billie Eilish.”
(私はビリー・アイリッシュの大ファンです。)
“He’s a huge fan of the actor.”
(彼はその俳優の大ファンなんです。)
などと言います。
そのほかにもさまざまな言い方があります。ここでは、会話でよく耳にするフレーズを3つご紹介しましょう。
1. “be into…”(ハマってる)
前置詞 “into” には、「中へ入り込む」という意味があります。そこから転じて、「ハマる」「夢中になる」という意味で使われるようになりました。
“I’m really into this idol group right now.”
(いま、このアイドルグループにハマってるんです。)
2. “support” / “back someone”(応援する・支える)

“support”や “back”は、スポーツや政治の文脈でも使われる、「支持する」「支える」という表現です。
“I’ll always support you in following your dreams.”
(あなたが夢を追いかけることを、私はいつも応援しています。)
“The party backed him in the election.”
(その政党は選挙で彼を支持した。)
3. 「推し活してる」と言うなら
英語では、「活動している」と抽象的に言うよりも、何をしているか具体的に伝える場合が多いです。
“I’ve been going to their concerts a lot.”
(最近よく彼らのコンサートに行ってます。)
“I collect their merch.”
(グッズを集めてるよ。)
“I follow everything they do.”
(彼らの活動を全部チェックしてるんだ。)
こちらでは一般的な言い回しをご紹介しましたが、アイドル文化やアニメ、音楽、映画、スポーツなど、それぞれのジャンルによって、新しいことばはたくさん生まれているようです。
世界の「応援」文化
「推し活」という言葉そのものは、日本語ならではの表現ですが、特定の人や作品、キャラクターを全力で応援し、時間やお金や気持ちを注ぐ文化は、世界のあちこちに見られます。
ここでは、英語圏を中心とした、「応援」にまつわる文化とことばを見てみましょう。
1. “Stan culture”(アメリカ|スタン文化)
“Stan” という言葉は、アメリカのラッパー、エミネムが発表した、アーティストに過度に執着するファンを描いた楽曲に由来します。
2000年当時、エミネムのもとには、自分の歌詞を文字どおりに受け取り、自傷や暴力をほのめかすような手紙が多く届いていたといわれます。そうした現実を背景に生まれたこの曲は、“Stan” という言葉を生み、「熱狂的なファン」という意味で辞書に載るまでになりました。
いまでは、ライブでコスプレしたり、SNSで徹底的に拡散や応援したりするような、強い熱量をもつファンを指す言葉としても使われています。“Stan” は、もともと極端なニュアンスを含んでいましたが、現在ではカジュアルに、「とても熱心なファン」という意味でも用いられています。
また、最近では、アーティストごとにファンの呼び名があることも、広く知られています。
たとえば、
テイラー・スウィフトのファンは “Swifties”
BTS のファンは “ARMY”
ビヨンセのファンは “BeyHive”
レディー・ガガのファンは “Little Monsters”
など。名前が与えられることで、ただの「ファン」ではなく、ひとつの共同体としての意識が生まれ、応援を通して、つながりを形づくっていく。そこに、現代のファン文化の面白さがあるように感じます。
2. イギリス|フットボールと音楽カルチャー
イギリスでは、“Premier League” を中心に、フットボール(サッカー)クラブへの忠誠心は「人生単位」と言われるほど強いようです。“football fan”(サッカーファン)や、“football supporter”(特定のクラブを応援しているファン)をはじめとして、ファンにまつわることばがたくさんあります。
家族代々同じクラブを応援することも珍しくなく、試合前後にはパブに集まり、飲みながら応援歌を大合唱する。勝っても負けてもクラブを支える続ける姿勢は、日本の野球やサッカーにも通じるものがありますね。
一方、音楽業界では、ハリー・スタイルズやアデルのファンにみられるように、ファンとアーティストの間に強い結びつきがあることがメディアからも伝わってきます。アメリカのファン文化と比べると、やや落ち着いている印象があります。応援の仕方にも、その国らしさがにじんでいるのかもしれません。
3. オーストラリア|スポーツ中心+フェス文化
オーストラリアでは、スポーツが大きな熱狂を生み出しています。とくに “Australian Football League(AFL)”は国内でもっとも人気のあるリーグのひとつで、応援するチームは家族や地域と深く結びついています。
一方、音楽の世界では、「みんなで一緒に盛り上がる」文化が特徴的です。英語では、音楽フェスのことを “music festival” と言います。カジュアルに、“music fest” とも言えます。
オーストラリアの大規模な音楽フェスでは、友人同士で集まって、音楽そのものを共有する体験を楽しみます。「誰かを神格化する」というよりも、同じ場所で、同じ体験を分かち合うことを大切にしているように感じられます。

最後に
ビクトル・ユーゴーの小説をもとに、映画やミュージカルにもなった『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』。19世紀フランスを舞台に、パンを一つ盗んだ罪で、19年ものあいだ牢獄につながれたジャン・バルジャンが主人公です。彼は、やがて孤児の少女コゼットを引き取り、父として彼女を深く愛します。物語の終盤、結婚を控えたコゼットの未来に、自分の過去が影を落とさないようにと、ジャン・バルジャンはそっと身をひこうとします。そこで語られる一節、原文はフランス語ですが、ここでは英語訳からご紹介します。
“To love another person is to see the face of God.”
(だれかを愛するとは、聖なる存在を感じることだ。)
(池上カノ訳)
出典:ヴィクトル・ユーゴー著『レ・ミゼラブル(英語版)』Kindle版、Public Domain Books、2010年刊。
人から愛されるのでなく、人を愛することが、人生を聖なるものへと変えていく。「推し活」もまた、ただ消費するだけでなく、誰かを思い、応援し、心を動かす活動だとしたら、それは尊い祈りのような時間なのかもしれませんね。
次回もお楽しみに!
●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。 その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。
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●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











