ライターI(以下I):戦国時代を舞台にした大河ドラマでは、登場頻度の高い太閤秀吉ですが、数えてみたら全62作品中、19作に秀吉が登場しています。ナレーション上での登場や、ほとんど姿の見えない登場も含めると21作。
編集者A(以下A):緒形拳さん、浜田光夫さん、中村芝鶴さん、火野正平さん……最近ですと『麒麟がくる』の佐々木蔵之介さんの秀吉が思い出されますね。緒形拳さん、仲村トオルさん、竹中直人さんはそれぞれ2度ずつ、秀吉役で大河出演をしています。
I:そして今回の『どうする家康』では、ムロツヨシさんが秀吉を演じました。当欄では初登場時に、「こんな秀吉見たことない。早くも最高の秀吉になる予感」(https://serai.jp/hobby/1111564)という記事を発信しました。コミカルな作品に出演される印象があったのですが、今回のムロさん演じる秀吉は、コミカルと見せかけ、実はすごく腹にいろいろ抱え込んでいる人物を見事に演じているんですよね。だから序盤から、どこか不気味なところを感じさせる秀吉像ができあがっていったように思います。
A:そのムロさんの取材会が行なわれました。ムロさんは「人たらし」と言われた秀吉そのもの。とにかくその場の空気を自分のものにしてしまうのが上手で、緊張している相手を笑いで和ませたかと思いきや、真摯に役に取り組む姿勢で聞き手の心に語りかけてくる。秀吉もムロさんのようなこういう側面があったんじゃないかと思いました。
I:では、そのムロさんご本人の口から、秀吉像について語ってもらいましょう。
とにかく、演じている僕自身が毎回驚かされる秀吉像なんですよね。野心家というだけでなく、非常に計算高くて、それで天下を取った男です。演じるにあたって、史実のリサーチをしたり、映画など作品もいろいろと見ましたが、秀吉は自己分析能力、そして予知能力が高いんじゃないかと思うんです。全てにおいて、誰かが理解する前に動いてるというか。要所要所で何かにおわせる言動があるんですが、それぞれの点を結ぶと、予知能力があったからこそこういう言動になるんだと解釈すると、腑に落ちるんです。そこに気付いた時に、僕の中でこのドラマの脚本の中にすんなり1本の線が通ったんですよ。ただ、よく言われるんですよ、僕の演じる秀吉はサイコパスだとか。そういうご感想を皆さまから頂くんですけどね、僕としては台本通りにやっているだけのつもりなんですが(笑)。
A:「自己分析能力、予知能力」というフレーズが出ました。 戦国史の中の秀吉のことを考えた時に、情報の取得と分析、対応力に関心が向けられると思います。以前、愛知県津島の津島天王祭の取材をした際に津島神社の宮司にお話を聞いたことがあります。その際、全国に津島信仰を広げる「津島御師」の存在を詳しく聞きました。そのとき、ふと「秀吉って津島御師だったんではないか」と思ったりしました。全国にたくさんの御師が拡散して情報が集積される。中でも秀吉は優秀な御師だったのでは、と。完全な空想史観ですけど(笑)。
I:津島天王祭は、信長の時代にも行なわれていたお祭りです。『信長全史』にはその際に撮影した写真が掲載されていますね。さて、ムロさんのお話は続きます。
まず一番驚いたのがですね、家康(演・松本潤)も信長(演・岡田准一)も全く三河や尾張のことばを話していないのに、僕の秀吉だけ尾張ことばなんですよ。あれ? おかしいなぁ、しかも尾張ことばを話すなんて聞いてないぞ? と(笑)。たぶんですけど、ムロに好き勝手やらせないために尾張ことばで縛ったのかなと思いましたよ(笑)。
I:そこですか! でも、お上手でしたよね、ムロさんの尾張ことば。
尾張ことばの先生がいらっしゃいますので、習得するにはそのテープを何度も聞くしかないですね。本当に難しいんです。関東で育ってしまうと、とてつもなく難しいんですよ。どうにもうまくいかない時がありまして、そのイントネーションを気にしていると、なんだかぐちゃぐちゃになっちゃって。一生懸命練習していると、なんか耳元でごちゃごちゃ言って邪魔する輩がおりましてね。そのまま本番に臨むんですが、なぜかオッケーが出て採用されてしまうこともありました。あの、地元の皆さん、聞いていてもし僕の尾張ことばがおかしいなと感じた時はですね、直前に悪い共演者があれこれ僕に吹き込んでいたんだと思ってください。岡田准一と松本潤っていうんですけどね(笑)。でも、本番ではそのふたりに負けじと練習したことをやりましたよ(笑)。
【ムロツヨシが語る、岡田信長、松本家康との関係。次ページに続きます】