岡田信長、松本家康との関係
A:今話題に出た織田信長役の岡田准一さん、徳川家康役の松本潤さんですが、それぞれ秀吉にとってどんな存在だったのか、ムロさんの視点で語って頂きました。まずは信長について。
信長様というのは、演じる岡田君あってこそなんですけど、やはりカリスマであり、絶対的存在なんですよね。岡田君の演技の説得力を含め、すごかったですね。大きい背中でした。僕の中の秀吉としては、ついていく、ついていきたい、この人のためなら死ねる、この人のためだったら何でもできる、と思わせる主従関係ですよね。途中で「早く逝ってくんないかな」なんてぼやくようなセリフもありますけども、それは信長があまりにも大きすぎて、あの人がいたんじゃ、時代が動かないだろう、ということなんです。時代はこの人が全て背負っていくし、そんな人物の側にいることが幸せ、やりがいであり、生きがいというのを秀吉は感じていたと思っています。
I:家康とは、信長の下でライバルみたいな関係だったわけですが……。
家康については、ある意味羨ましくも思っているライバル関係だったと思います。家康のことは好きだったというのはあると思うんですよ。絶対的存在であった信長が、誰よりも認めていたのは秀吉ではなく、家康だと秀吉は思っていて、そこに対してちょっと嫉妬はあれど、その嫉妬心を超えて、秀吉も家康を認めていた。家康を認める力が秀吉にはあったと思います。秀吉に見えているものは信長にも見えていて、家康についても同じことを思っていた。信長、家康、そして秀吉という3つの点をつなぐ三角形があったと思うんです。歪んではいるけれど、繋がっている三角形。いびつな三角形。あ、この言葉、今急に頭に浮かんだんですけど、ちょっと気に入ったんで記事に書いてください。
A:タイトルに入れますね(笑)。岡田さん演じる信長だからこその「大きい背中」という言葉が出ましたが、座長の松本さんの魅力についても語ってくれました。
松本さんの魅力と聞かれてすぐ出てくるのが、やっぱり「責任感」って言葉ですかね。とてつもなく強い責任感ですね。ひとつの役を演じるというだけでなく、ひとつの作品、この大河ドラマ全体に対する責任感は誰よりも強いです。ここまでかっていうくらいの背負い方をしている方だな、というのが印象ですね。「そこまで責任を持たなくてもいいのに」と思うぐらい持ってしまうところが、まさに魅力と言いますか、かっこよく見えますし、役者としてお芝居について悩んでる姿もやはり松本さんの魅力なんだろうなと思います。弱音をしっかり吐いてくれるといいますか、人間味のある役者さんですごく素敵だなと思いますね。
I:松本さんと演じた最後のシーンについては、こんな風に語ってくれています。
最後の最後で、家康と本音で話せたのは良かったです。普段僕は、自分から演じる役柄の心について話し合うってことは避けたりしているんですけども、今回は松本さんからちょっと意見をすり合わせておこうと言って頂いて、それでこのシーンに関しては松本さんとふたりで話し合う場を設けて頂いたんです。このシーンに関しては、台本に書かれていること以上に超えていかなきゃいけないところがたくさんあったので、ふたりで意見を出しあいました。松本さんと、足したり引いたりしてふたりで作り上げたシーンです。台本を読んだ時に、もしかしてこれはとてつもなく悲しい終わり方なんじゃないか、と思ったんですよね。天下を取った男の最期。人から見たら猿であり、道化を演じてきた秀吉ですが、最後の最後はそれを全て捨てたというか……。家康との最後の会話でやっと本音が出せたんですね。敵対というより、このふたりの人間同士にしか分からない天下、天下一統というものを成し遂げてしまう人たちにしかできない会話を、ふたりでできたのは、僕の中ではとてつもない財産だと思っています。
もう一度秀吉を演じたい
A:後半の秀吉は、鬼気迫るものがありましたよね。本当はもっともっとじっくりと秀吉の権力掌握、家康との攻防などを展開してほしかったですが、それは本作でいうところの「裏設定」になるのでしょう。
秀吉は野心が本当に止まらなくて動いていたという感じなんですが、もしかしたら、自分の野心がなくなることに対する恐怖でああいう言動をしていたんじゃないか、という可能性も僕の中で出てきたんですよね。子供が生まれて最強の自分という気持ちになり、その子供が亡くなっておかしくなっていき、するとまた子供が生まれて歓喜し、さらにおかしくなっていく。自分の野心がどこにあるのか、靄(もや)がかかったようにもうわからなくなってしまっている。それまでに確実に見えていたものが見えなくなる。その恐怖を自分でわかっていて、誰にも言えなくて孤独になっていく。傍から見れば頭がおかしくなった人になるのかなと。僕はその解釈で演技させて頂きました。でも、朝鮮出兵については野心とは別に思うところがあるんです。世に戦がなくなったとしても、武士達は生きていかないといけません。平和になった日本には武士たちの生きる場所はなく、武士たちが行き場をなくしたことで、世が乱れることも秀吉には見えていた。国内に攻めるところがなくなったのなら、国外で戦えば武士たちがみんなでひとつになれるかもしれない。そういう思いはあったのかなと思います。
I:秀吉の立場に立ったムロさんの話には、説得力がありますよね。天下を統一して、直後に団結して海外に敵を創出していく。現代でもそうした攻防があったりしますからね。最後に、ムロさんはもう一度秀吉を演じたいと言っていました。
僕は、秀吉としては最後笑って死にたいなとは思っていました。今回、若い頃から死ぬまで、秀吉を演じさせてもらいました。もう一度、秀吉を演じたいなと思います。もしかしたらまた違う秀吉になるかもしれませんね。
A:織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人が同時代に知己を得て3人がかりで戦国の乱れた世を収束させていく。ひとり欠けていてもできなかったのではないかと思います。その中で秀吉はその特異なキャラクターで日本史の中で燦然と輝く存在だと思います。
I:3人の出会いは「日本史の奇跡」のようなものですね。
A:その「日本史の奇跡」に特化したドラマを見たいです。秀吉はもちろんムロさんで。
I:楽しみですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり