徳川家臣団の重鎮、酒井左衛門尉忠次を演じた大森南朋さん。(C)NHK

ライターI(以下I):『どうする家康』で大森南朋さんが演じた酒井左衛門尉忠次は、家康の側近中の側近で、徳川四天王の筆頭に位置づけられた人物です。

編集者A(以下A):酒井家といえば、忠次の孫の代に庄内藩主として現在の山形県鶴岡の地に移封します。作家藤沢周平さんのファンの方ならば先刻承知の「海坂もの」は庄内藩領の景色がモデルになっています。私も何度か行ったことがありますが、周囲には出羽三山を擁し、さらに江戸期の僧侶が生きながらミイラとなった即身仏を蔵する寺院が点在するなど、二泊はしないと見どころを抑えきることができません。

I:本編でも紹介しましたが、致道博物館という凛とした博物館がありますし、見どころ満載の地方都市なんですよね。

A:徳川四天王の筆頭ということで、幕末には会津松平家と並んで最後まで徳川家のために新政府軍と抗戦したのも庄内藩です。そうした歴史を踏まえたうえで『どうする家康』での家康と忠次との別れの場面を見ると、感慨もひとしおです。

I:今週は忠次を演じた大森南朋さんからコメントが寄せられました。まずは、クランクアップした際の感想です。

またひとつ素晴らしい作品に携わることができたという達成感もありますが、大河の撮影に通うのがすっかり生活の一部になっていたので、今は寂しい気持ちの方が大きいです。長期間撮影を続けてきた分だけ、重みも増しているように感じます。家臣団の中でも一足先にクランクアップを迎えましたが、殿(家康/演・松本潤)をはじめ、未だ撮影を続けている皆さんの気持ちを察すると大手を振って喜べない感じがして……(笑)。それくらい、『どうする家康』愛が強くなっています。

A:『どうする家康』愛 。いいフレーズですね。大森南朋さんほどのベテランがそのような思いにかられるというのは、ほんとうに熱い現場だったのでしょう。その熱気の源流はやはり「家康家臣団」の存在です。大森さんのお話をどうぞ。

物語前半は、殿を囲む徳川家臣団の群像劇という要素も強かったので、家臣団が集結する場面の芝居のキャッチボールも凄く楽しかったです。収録で家臣団が揃う日は、心弾ませながら現場に通っていました。忠次も回を重ねるごとに段々と老いてきたので、「あとは任せた」という空気を少しずつ出していたつもりですが、忠次を除いた徳川四天王(本多忠勝、榊原康政、井伊直政)は特に、今後ますます成長していくと思います。

若手チーム3人は、役者としても皆頼もしいです。特に直政を演じている(板垣)李光人くんは息子くらいの年齢なので、もう可愛くて仕方なくて。どうしたらこんな子に育つんだろうと思いながら見ていました(笑)。本多忠勝役の山田(裕貴)くんも榊原康政役の杉野(遥亮)くんも含め、伸び伸びしてるけれどとてもしっかりしているし、リラックスして自分のお芝居ができる強さも感じるし、これからが本当に楽しみです。

同世代のおじさんチームも、ご一緒できて楽しかったです。ほとんどの皆さんが過去何度かご一緒している方々ですけれど、ここまで長期間ご一緒できることもないので、有り難い機会でした。大久保忠世役の小手(伸也)さんとは今回初共演でしたが、この歳になっても現場で誰かと出会って仲良くなれるというのは嬉しいことですし、沢山刺激もいただきました。出会えて良かったです。これだけ長く一緒にいると仲良くなりますし、家臣団メンバーとは特に良い時間を共有できたなと思います。

I:大森さんより先にクランクアップした松重豊さんによると、家臣団を演じた俳優のLINEグループが設けられたようです。やっぱり長期間同じメンバーで仕事をすると自然と絆が深まるんですね。さて、大森さんのお話は、さらに続いて第39回の台本を初めて読んだ時の感想です。

戦国時代の最後というと、戦で華々しく散るイメージもありますが、今回は老衰で死ぬという形でした(笑)。でも今作はあくまで家康を軸にした物語で、登場人物全員の最期を描ける訳ではない中、あのような素敵なラストを描いてくださったことが本当に有り難いなと思いました。戦に出ようとするシーンも殿への忠誠心の強さからくるものだと思いますし、子を思う親のような気持ちで殿を見守り支え続けてきた忠次だったので、最期に殿ときちんとお別れできる場面も作っていただけたのは嬉しかったです。

I:酒井忠次は、劇中で描かれた通り、京都で人生の最期を迎えました。享年70。家康の家臣団筆頭にふさわしく甲冑姿のまま亡くなるという演出でしたね。さて、大森さんの話はさらに続きます。家康と忠次ふたりのシーンについて熱い思いを語ってくれました。

役者としては御法度だと思いますが、忠次の殿への思いに加えて、僕の(松本)潤くんへの思いが乗ってしまったような気がします。ストーリー的にも殿や家臣団は家族のような関係性で描かれていますし、1年以上に渡る撮影期間を共に過ごしてきた中で、自然と潤くんへの思いも強くなっていたことに改めて気付きました。

「殿だからできるのでござる」「天下を取りなされ」というセリフもあったように、忠次が殿の背中を押す場面でしたが、今回の忠次の言葉だけでなく、石川数正(演・松重豊)、本多忠真(演・波岡一喜)、夏目広次(演・甲本雅裕)など……殿を支えてきた家臣団それぞれの思いが、殿が築く天下の礎になっていくんだなと思いながら演じていました。僕としては、泣くシーンにはしたくないという思いはありましたけれど、その他細かなプランは決めずに臨みました。

泣くと言えば……いつも細かなプラン立てはせずに臨むのですが、第34回で数正の出奔の真相が分かって家臣団が涙するシーンも、自分はあんなに泣くと思っていなかったんです。数正の出奔が寂しいのか松重さんに会いたいのか、自分でもよく分からなくなりました(笑) 。やはり長く撮影していると、自分の中で役と役者がリンクする感覚になってきて。見てくださっている方よりも僕の方が没入しているかもしれません(笑)。

A:毎回同じようなことを言って恐縮なのですが、夜中に第34回を見返して、大森南朋さんの涙のシーンを再確認しました。改めて見るとほんとうにいいシーンですね。なんだかこの作業が癖になりそうです(笑)。

I: さて、大森南朋さんの話は、「殿」=松本潤さんのことに続きます。

潤くんはひたむきに芝居と向き合う熱い気持ちを持った方なので、僕らもそれに全力で応えたいし、主演が抱えるプレッシャーを少しでも軽減できたらという思いでここまでやってきました。揺れていた時期も知っていますが、ブレることなく前だけ見て走り続ける意思の強さを持っている方ですし、男としてのかっこよさも見せて貰いました。

潤くんのカリスマ性と、少しでも彼の力になりたいと思う家臣団メンバーと、皆の結束感と……普段の空気感が少なからず映像にも現れると思うので、そこは自然に表現できていたのかなと思います。忠次は亡くなりましたが、気持ちは変わらず家臣団のままで、徳川の行く末を最後まで見届けたいと思います。

A:これまで、クランクアップした松重豊さん(https://serai.jp/hobby/1150282)、小手伸也さん(https://serai.jp/hobby/1154940)も主演の松本潤さんに対する熱い思いを語ってくれていました。大森さんからも〈ひたむきに芝居と向きあう熱い気持ち〉というフレーズが飛び出しました。

I:長期間、ともに戦ってきた関係だからこその話ですよね。これこそが現場の真実を伝える言葉なのではないでしょうか。

A:大森南朋さんの〈気持ちは変わらず家臣団のままで、徳川の行く末を最後まで見届けたいと思います〉という最後のフレーズに注目してください。これは『どうする家康』の最終回までの行く末のことを言っているのと同時に、庄内藩酒井家の行く末にまで言及しているのだと感じています。もし、今後幕末のドラマで奥羽越列藩同盟が登場したとして、庄内藩の名が出て来た際は、この酒井忠次の藩だというふうに認識してほしいです。最後の最後まで徳川に忠義を尽くした藩だということを。

I:なるほど。「わが酒井家は徳川将軍家の歴史を最後まで見届けたんだぞ」という思いが込められているということですね。大森南朋さん凄い!

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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