編集者A(以下A):『どうする家康』第21回は涙の感動回になりました。それもこれも鳥居強右衛門を演じた岡崎体育さんの熱演の賜物。キャスティングの妙ですね。鳥居強右衛門に岡崎体育さんを配した制作陣の慧眼に拍手です。
ライターI(以下I):岡崎体育さんは2016年にメジャーデビューしたシンガーソングライターでもあります。NHKの朝ドラ『まんぷく』なんかにも出演した経験がありますから、俳優としても実績を重ねている方ですね。
♪ ろくでなしだと 人は言う 知恵なし 才なし 武功なし なんもなくとも 強右衛門 走れ 走れ 強右衛門 走れ 走れ 迷いなし
という劇中挿入歌を歌唱していたのも岡崎さん。なんだか心に染み入るシーンになりましたね。
A:大河ドラマの劇中挿入歌というと『獅子の時代』(1980年)にダウン・タウン・ファイティング・ブギウギ・バンドの『OUR HISTORY AGAIN 時の彼方に』が思い出されます。菅原文太さん演じる主人公の平沼銑次が疾走する場面などで流れていましたが、今も強烈に記憶に刻まれています。
I:43年前の大河ドラマですか。斬新な演出をしていたのですね。
A:そういう意味でいえば、今回の岡崎体育さんの歌唱も良かったのですが、岡崎さんに振り切った楽曲を制作してもらって流しても良かったかなとも思いました。それだけ今週の第21回の完成度は高かったです。
I:完成度といえば、鳥居強右衛門の三河弁、うまかったですね。〇〇だで、とかいった言い方とか、イントネーションとか。「岡崎さん三河生まれ?」と思うほどのクオリティでした。
A:三河生まれのIさんが言うくらいですから、ほんとうにうまかったのですね。岡崎さんは関西生まれですから、特訓でもしたのでしょうか……。さて、その岡崎体育さんからコメントが寄せられました。まずは「鳥居強右衛門という人物はご存じでしたか?」というベタな質問に答えてくれました。
役を頂くまで存じあげませんでしたが、出演が発表された後、親しいバンドマンの友人から「鳥居強右衛門のファンだ」と連絡をもらいました。身近にいるということは、日本中に強右衛門のことを好きな方がいらっしゃるのだろうと思い、身の引き締まる思いでした。NHKから文献を借りて読んだり、自分なりに調べたりして、徐々に人物像を理解していきましたが、強右衛門のファンの方や末裔の方に恥じないようにというプレッシャーを感じつつも、今回の作品で描かれる「ろくでなし」強右衛門をどんな風に演じられるだろうというわくわく感でいっぱいでした。
A:弊社刊の『徳川家康の名宝』には、幕末に久能山東照宮に奉納された鳥居強右衛門が磔になっている画が掲載されています。幕末の段階でもそれだけの「人気」があったことがわかります。戦前には教科書にも載っていましたから、根強い人気があるのだと思います。
I:岡崎さんのお話はさらに続きます。
さまざまなな文献を読んでいくと、強右衛門の人物像としては「殿のために男らしく死んでいく」というのが共通項だったので、台本にある「ろくでなし」というキャラクター設定は今作ならではなのかなと思いました。そして、第 21 回で登場してすぐ死ぬんだというのは驚きました(笑)。一夜限りの登場だからこそ、自分の芝居でどう強右衛門の存在感を出せるのかというのは楽しみでした。
A:確かに「一夜限り」というのはもったいない気がしますよね。でもかなり濃密に強右衛門のエピソードを描いてくれたと思います。夢想の中で胴上げをされる場面、最初は武田勝頼(演・眞栄田郷敦)の求めに応じて、「援軍は来ない」と叫んだ場面など、クスッと笑えたり、「え?」と思わせたり、楽しく見させてもらいました。
I:岡崎さんご自身は「見せ場」のシーンについてこう語っています。
一番の見せ場であるラストシーン、仲間に対して「徳川様はすぐに参られる」と伝え、武田勢に磔にされる場面は、ろくでなしの強右衛門なのに、そんな自分ですら大切に思ってくれる殿や亀姫のために行動したいという純粋な気持ちから生まれたものだと思います。セリフは多くありませんでしたが、息づかいや眼球の動き、佇まいで強右衛門の葛藤を表現するのは興味深く、やりがいのあるシーンでした。
I:息づかいや眼球の動き……って、そういう部分に気を遣っていたとは驚きです。もう一回見直して確認してみたいですね。そして岡崎さんのお話は信長とのやり取りにまで発展します。
史実では、信長は鳥居強右衛門のことをすごく気に入って、磔で亡くなった後も信長がお墓を立てたのだそうです。信長は心のテリトリーに踏み込んでくる人を好きになるところがあるのかなと思っているので、意識的に無礼に振る舞おうというのは決めていました。岡田准一さんも「つかみかかってきても良い。失礼とか全く気にしなくて良いから」と言ってくださっていたので、出来るだけ失礼になるように心がけました(笑)。
I:できるだけ失礼になるようにって、遠慮なしに演じられる空気を醸し出しているのは、さすが「岡田信長」ですし、やっぱり座長の「松潤家康」の力は大きいのかって感じました。そして最後に、改めて鳥居強右衛門を演じて感じたことを語ってくれました。
今回のドラマで描く強右衛門は泥まみれで清潔感のないキャラ設定ですので、 セリフを話すときに不自然に眉間にシワを寄せたり歯を剥き出して笑ったりと台本に描かれていない野生感を意識しました。不快感と愛されキャラの両立はとても難しいですが、お芝居は難しいほど楽しいのでやりがいがありました。(強右衛門は)ぶっきらぼうで不器用なイメージもありましたが、実際に演じてみて感じたことがひとつありました。「強さ」とは武功や腕力ではなく、仲間を守りたいという思いが苦しさや痛みを凌駕したときに生まれるものだということです。彼の人生にはその強さがありました。
A:岡崎さんはクリエイターだけあって、発言に重みがありますよね。鳥居家は強右衛門の命を賭した働きによって、奥平家で重臣となり、江戸期には家老になる人物を輩出したようです。36歳で亡くなった強右衛門ですが、今もご子孫が健在だそうです。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり