江戸時代から続いてきた鮨、天ぷら、蕎麦、そして昭和の時代に発達した焼き鳥は東京の食文化。老舗から新店まで、足を運びたい店を紹介する。
わずか5席の空間で全てを委ねる心地よさ
鮨 真菜 湯島
『鮨 真菜』は、上野からほど近い湯島の駅からすぐ、大通りに面した場所にある。構えは控えめで、気付かず素通りしそうになるほど小さな店だ。カウンターに並ぶ椅子は、わずか5脚。ここに座り、主人の金井淳さん(46歳)に全てを委ねてゆったりと過ごしたい。
握りのおまかせは、烏賊や白身魚といった淡い味のものから始まり、小鰭や鮪といった江戸前定番の鮨種へと徐々に盛り上がっていく。金井さんはこう説明する。
「3種類の酢を使ったうちの酢飯は、見かけの色は濃いですが味はそれほど強くない。でもほどよいコクがあり、締めものや鮪には特に合うと思います」
仕入れや仕込みも全て金井さんがひとりで行ない、その中で生み出されたのが「車海老のヅケ」。ひとりだと、その場で茹でたての海老を出すことが難しくこの形になったというが、これが白眉の出来である。車海老のしっとりとした歯触りの中に染み込んだ淡い醤油の香りに、酢飯の酸味と塩味が合わさり、複雑で立体感のある味わいだ。
自身も酒好きという金井さんが厳選して揃えた日本酒は、品の良い薄いグラスで供される。これを傾けながら、鮨種をひとつひとつ、じっくりと堪能したくなる店である。
鮨 真菜
東京都文京区湯島3-46-6 TS天神下ビル1階
電話:03・6803・0190
営業時間:17時30分〜22時
定休日:不定 5席。
※この記事は『サライ』本誌2023年9月号より転載しました。取材・文/浅妻千映子 撮影/浜村多恵