文/鈴木拓也
愛犬の日々の食事として何を食べさせているだろうか?
おそらく、ほとんどの人は市販のドッグフードを挙げるにちがいない。
「犬に必要な栄養分が過不足なく含まれているから、健康にもいいのだろう」と思うが、実はそうでもないらしい。
東京農工大の研究では、長生きする犬はドッグフードのみの割合が低く、飼い主の手作り食の割合が高かったというデータがある。健康長寿という観点では、ドッグフード単体はベストではないようだ。
手作り食は簡単にできる
獣医師の立場で手作り食を積極的にすすめるのは、ペットクリニックZeroの長谷川拓哉院長。ドッグフード中心の食生活だと、「圧倒的に水分の摂取量が少ない」と著書『愛犬の健康寿命がのびる本』(青春出版社)で警鐘を鳴らす。さらに、ビタミンやミネラルも不足しがちになるという。
そもそもドッグフードは、いろいろな原材料をぎゅっと詰めて丸くして、加熱して乾燥させています。
フード内に含まれている水分が10%以下でないと品質保持ができないためです。
だから、水分はほとんど飛んでしまいますし、栄養素はその過程で添加されているだけなのです。そう考えると、本当に栄養素は生きているのかという疑問が出てきます。(本書43pより)
そのため長谷川院長は、飼い主の人たちに手作りごはんを推奨する。
料理の苦手な人だと身構えてしまうかもしれないが、作り方はいたって簡単。「穀物:肉または魚:野菜=1:1:1」で作るだけ。人間の食事で言えば「おじや」が近い。
頻度は朝晩1回ずつ。分量は目安として、「ワンちゃんの頭に帽子をかぶらせたと想定してみてください。その帽子の大きさが1回分の手作り食の量」だという。
ただの散歩では欲求は満たされない
愛犬の健康長寿で、もう一つ忘れてはならないのが「散歩」。
長谷川院長は、犬の散歩は、「運動」「探査活動」「なわばり活動」の3点が満たされていないと、犬が本来持つ欲求は満たされないと指摘する。
たとえば、ゆっくり歩いてにおいをたっぷり嗅がせて散歩から帰ってきても、「運動」の欲求は満たせません。逆に思いきり走らせるけれどもにおいを嗅がせず、マーキングもせずに帰ってきたら、「探査活動」「なわばり活動」の欲求は満たせないのです。(本書88~89pより)
また、「散歩」はあくまでも「散歩」であって、「運動」とは別物と考えるべきだとも。長谷川院長の言う「運動」とは、「ボール遊びや思いきり走る」など、かなり体を使うもの。室内で走り回せたくらいでは足りないので、「運動」の場所・時間をしっかり確保する必要がある。
とはいえ、散歩にあまり意味はないかといえば、それは違うそうだ。毎日散歩した犬の方が長生きしたというデータはあり、外を歩くことで全身から刺激を受け、認知症予防にもつながる可能性があるなど、メリットは無視できない。
体を拭きながら異変をチェック
日々の健康管理として、長谷川院長がすすめるのが、「体を拭きながら」の全身チェック。
これは、1日1回、散歩の後にでも愛犬の各部位を、お湯で絞った温かいタオルで拭くことだ。
この時、ただ拭くのではなく、拭いたあとの目をちゃんと見てあげましょう。
「目ヤニはない?」「目が白く濁っていない?」「目は赤くない?」
早期に結膜炎、角膜炎、もしかしたら緑内障や白内障を見つけることができるかもしれません。
毎日繰り返しているとちょっとした変化に気づきやすくなります。
そのまま、鼻、頬、口へ。腫れているところはないか、イボができていないか、唇のあたりが赤くなっていないか。(本書119pより)
このように、顔から前足、胸、お腹……と、拭いていきながら、異変がないかチェックする。病気の早期発見につながるとともに、スキンシップにもなって一石二鳥。併せて、散歩しながらの目視によるボディチェックやトイレの始末のついでの体調チェックなども、適時行いたい。
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健康長寿のためには、日々の好ましい生活習慣と異状の早期発見が大事なのは、犬も人間と同じ。「何かあれば動物病院が何とかしてくれる」ではなく、いつもそばにいる飼い主が、日常のケアを積み重ねることが重要だ。そのための手引きとして、本書はとても役立つ1冊となるだろう。
【今日の愛犬に健康に良い1冊】
『愛犬の健康寿命がのびる本』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。