取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
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義雄さん(仮名・60歳・会社員)。義雄さんの同じ年の妻は、結婚32年目、コロナ禍の2021年2月半ば、離婚をして、家を出て行った。
【その1はこちら】
妻の口から「あなたは私を愛していなかった」と言われた
32年間も過ごしており、健康保険や年金など、夫婦が“同一”とされる社会保険制度や、長年使ってきたキッチン、それなりに裕福な義雄さんとの生活を、60歳の妻が手放すには、相当な“覚悟”が必要だったのでは……と推測してしまう。
「たぶん、なんとなく準備はしていたんだと思う。寝耳に水だったけれど、言われてみると妻の荷物が減っていたり、外出の時間が長くなったりしていたけれど、30年くらい前から僕たちは“他人”のようなものだったから、気にもしなかった」
ある日、妻は日常会話のように、「ねえ、離婚しない?」と持ち掛けたという。
「畳みかけるように離婚届けが出されて、こっちは驚いて破ると、もう一枚出されて、それを破るともう一枚出されて、3枚目を破ったら、4枚目を出されて観念した。妻の方が一枚も二枚も上手をいっている。こっちが何をするかはお見通しで、それに向けて周到に準備をしている。“俺がいなくて飯が食えるのか。こんないい生活ができるのか”と怒鳴ったら。“この生活は牢獄”と一言。お金も要らない、仕事も住むところも決まっている。だから離婚してほしいと言われたら、ハンコをつくしかない」
離婚の理由を聞いたら、「あなたは私を愛していなかった」と言われた。
「結婚って、愛とか恋とかそういうくだらないことではないだろう。家と生活だよ。金は要らないとか言っておきながら、僕名義の口座から2000万円がなくなっていた。貯金のちょうど半分だよね」
それから1週間、近所の噂話が好きな顔見知りの初老の女性からコトの真相を知らされた。
「妻は、最近、オトコができたんだそうだ。相手は18歳年下、48歳で一人暮らしをしているバツイチ男。そいつと犬の散歩で知り合って、顔見知りになるうちに、深い仲になったんだそうだ」
【犬の散歩に50~60代の出会いがあることは、よく知られている。次ページに続きます】