ライターI(以下I):〈待ってろ、俺の白兎〉という織田信長(演・岡田准一)の台詞が注目された第1回でしたが、第2回冒頭は、竹千代(後の家康)誕生まで時が戻りました。
編集者A(以下A):桶狭間の戦いが永禄3年(1560)ですから、17年前のことになります。〈寅の年、寅の日、寅の刻〉に生まれたと、於大(演・松嶋菜々子)が説明してくれました。昨年の『鎌倉殿の13人』では源実朝が暗殺された後に京からわずか2歳の三寅(みとら/後の藤原頼経)が鎌倉に下ってきましたから、同じ三寅だ! と思いました。
I:於大が家臣団に対して〈寅のごとき猛将になるに違いない。がおー、がおー〉と「雄叫び」をあげ、家臣団も呼応しました。父の広忠(演・飯田基祐)が竹千代をお披露目する場面は、劇団四季『ライオンキング』へのオマージュですかね? なんだか微笑ましい場面になりました。
A:私は、2002年の『利家とまつ』第12回で、やはり松嶋菜々子さんが演じたまつが音頭をとった〈百万石! 百万石!〉のシュプレヒコールを思い出しました。 繰り返し発せられた〈私にお任せくださりませ〉の台詞も懐かしいです。
I:あれから20年以上経つんですね。
A:家臣団が「がおー」と呼応する場面、メタバース空間作ってくれたら参加して「がおー」と一緒にやりたいですよね(笑)。さて、20年で映像も最先端技術が駆使されるようになりました。
I:目に慣れないうちは違和感を覚える方もいるかもしれません。第1回では特に馬のシーンに違和感を覚えた方がいたようです。
A:ああいうシーンは以前ならば、演者の上半身のみの描写が多かったのです。本作ではすでに2022年の3月にCGで再現した馬の画像がTwitterの公式アカウントで紹介されていました。私は、その「第1歩」を共有できたんだとわくわくしながら見ていました。
I:なるほど。歴史のスタートに立ち会えたという認識なんですね。
A:はい。これまで大河ドラマの合戦シーンのロケで投入される馬は多くて10数頭。おそらく20頭まではいっていないと思います。その頭数をカメラワークでたくさんいるように見せるのは大変だったと思います。しかし、「CG馬技術」が進化すれば、一大戦国合戦絵巻を展開することもやがて可能になるでしょう。真剣に期待しています。
I:進化していく道程を見られるということになると、それは楽しみになりますね。
竹千代は千貫で売られた!?
I:さて、ここで場面は松平元康(演・松本潤)が立て籠る大高城に戻ります。第2回では、竹千代時代と大高城の場面が行ったり来たりしました。一瞬たりとも気を抜けません。
A:行ったり来たりというのは、ともすればわかりにくさにつながることもありますが、本作の演出は絶妙でした。桶狭間合戦後の混乱の中で、元康の記憶の中にある過去が効果的に差し込まれた印象です。
I:ところで、竹千代が織田家に人質になるくだりは大久保彦左衛門著の『三河物語』をベースにした感じですかね?
A:前作の『鎌倉殿の13人』では鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』を基軸として物語が展開されていましたが、家康の治績に関しては、『三河物語』とか『松平記』に加え、平岩親吉(演・岡部大)が著者との説もある『三河後風土記』やらたくさんの「編纂物」があります。今回の戸田宗光(康光とも/演・真水稔生)に関しては、『三河物語』には千貫で竹千代を売り渡したと記されています。一方で、最新の研究成果でも竹千代が織田方にわたった経緯については諸説提起されています。
I:そういう意味では古典的な表現だったわけですね。
A:古典的な表現といっていいかどうかわかりませんが、必ずしも大河ドラマに最新の知見を入れ込む必要はないわけですから、古典は古典でいいのではないでしょうか。例えば、1973年の『国盗り物語』の原作は司馬遼太郎さんの小説ですが、油商人から身を興した斎藤道三の出世物語になっています。ところが現在の定説では、その出世物語は、道三の父と道三の二代にわたる業績だったことになっています。そのことを記した史料が『岐阜県史』に掲載されたのは1968年だそうです。
I:なるほど。新説が定着するのも時間がかかるということですね。
A:家康の史料に関しては、国立公文書館が「徳川家康 将軍家蔵書からみるその生涯」(https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/ieyasu/)というwebサイトを公開しています。平成28年にまとめた意欲作ですが、『どうする家康』と連動して、各史料の読み下し文、文意も加えるなどバージョンアップしてほしいと思うくらい充実しています。
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