花と向き合い始めて30余年。フラワーアーティストの元気の源は五穀米や納豆、蜆など、体にいい食品が並ぶ朝食である。
【川崎景太さんの定番・朝めし自慢】
「マミフラワーデザインスクール」──この学校を創設したのがフラワーデザインの先駆者、マミ川崎さん(2004年6月17日号の当欄に登場)である。
「母は卒寿を迎えましたが、総長として今も週1回は学校に顔を出し、作品も発表しています」
マミ川崎さんの長男で、フラワーアーティストの川崎景太さんが語る。けれど、景太さんは最初から“花”の道を選んだわけではなかった。マミさんはふたりの息子に、何事においても強制することはなかったという。
「幼い頃、飼っていた鶏の餌になるハコベを無我夢中で探し回っていたのが、植物への関心の原点かもしれません。だが、少年にとって世の中は植物以外のおもしろいことに満ちており、母の仕事に興味をもつこともありませんでした」
高校卒業後は、米・カリフォルニア芸術工芸大学に留学。ランドスケープデザイン(※風景・景観をデザインすること)を学ぶが、徐々に陶芸や版画に惹かれる。興味の対象が絞れぬまま、母の作品に感銘を受けたのは28歳の時だ。土と向き合っていたのが、植物や花に目を向けるようになり、思いのままに作品を作り始める。
「それを見ていた母が基礎から勉強したほうがいいと助言をくれ、スクールで4年ほど学びました」
その後はテレビや雑誌、展覧会などで、既存のアレンジメントの常識を打ち破る斬新な作品を次々と発表し、日本を代表する作家として活躍。2006年~’13年までスクールの主宰も務めた。
食事プラス7つの健康法
花と同じように、食品と向き合う料理も嫌いではない。朝食を自ら調えることも多い。
「納豆やオクラ、メカブなどのネバネバ系食品が好きです。これらには食物繊維が多く含まれ、腸内環境を整えて免疫力をアップさせる効果もあるんですよ」
主食は五穀米。疲労回復効果のある蜆の味噌汁も欠かさない。
食事以外の健康法が7つ。
1.花からパワーをもらう。
2.花や木が相手の肉体労働を楽しむ。
3.早寝早起き。
4.誕生日(年齢)を忘れる。
5.人と交わる。
6.ストレスをためない。
7.ポジティブ志向。
これらの健康法には、芸術家の情熱と科学の合理性が同居する。
“生きものとしての植物”と共生、共感する
2014年4月、スクールを弟の景介さんに任せ『(株)KTION(ケ ーション)』を設立。「Keita Flower Design」を立ち上げた。より深くフラワーデザイン、フラワーアートを追求したいと思ったからである。
花の世界に入って30余年。ひとつ、確信をもったことがある。花はモノではなく、生きものだということだ。人本位に花をデザインするのではなく、同じ地球上の仲間として花文化を創造したい。
「私が花を生ける時、その花はいまだ見ぬ己の美しさ、他の生きものとの出会い、置かれた環境に満足してくれているか、をまず第一に考えます。花は言葉では答えてくれませんが、私が鋏を置いた時、満足気な花の声が聞こえるような気がするのです。私はその声を信じてやみません」
花から多くのことを学ばせてもらっている恩返しに、自然界では見せてくれなかった花の姿や心を多くの人たちと分かち合い、感動を共有したい──。そこには“生きものとしての植物”という一貫した姿勢があり、現代社会に向けて共生、共感というテーマを投げかけている。
※この記事は『サライ』本誌2022年7月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )