ビストロオーナー夫妻が揃って休める月曜日は、ワインを楽しみながらブランチ。これがふたりの1週間分の元気の源だ。
【関根進さんと葉子さんの定番・朝めし自慢】
東京・西麻布の交差点から1本入った道路は、ビストロ通りとも呼ばれる。日本のビストロの草分け、『ビストロ・ド・ラ・シテ』(以下シテ)があるからだ。
「前のオーナーシェフがこの店を始めたのが1973年。9年後の’82年に私どもが引き継いだのです」
と、オーナーの関根進さん・葉子さん夫妻が語る。
1970年代~’80年代といえば日本のフランス料理はホテルで食すもの。ましてやビストロを知る人も多くはなかった。シテでもビストロと名乗りながら、レストラン風の料理も出していたが、
「’90年頃になると町にフランス料理の店が急増し、原点に戻ろうと当時のシェフと1か月半、パリを中心にビストロ巡りをしたのです」
と、進さんが語る。こうして生まれたのが豆煮込みのカスレや、野菜惣菜をボウルに盛り込んだサラダ・シテだった。レストランではお目にかからない、豪快で骨太なビストロ料理である。
一方、葉子さんは1978年に開店したフレンチレストラン『オー・シザーブル』(以下シザーブル)のマダムとして、多くの名シェフを育てたことで知られる。
「けれど夫が75歳、私が70歳になったのを機に、シテと統合いたしました。だから、今のシテにはシザーブルの要素も入っています」
ビストロとレストランの融合。現在のシテのメニューには、ふたつの店のシェフが守ってきた料理が並ぶ。時流に合わせたシテの進化は、関根夫妻の軌跡とも重なる。
接客とワインが健康の秘訣
シテでは3年前からランチを始めた。ランチは葉子さん、ディナーは進さんの受け持ちだ。従って、ふたり揃っての休日は月曜日のみ。
「この日はワインと料理を楽しむブランチです。好きなものは我慢したくないので、夫にはウィンナー、私には生ハム、チーズも夫用にミモレットとコンテ、私用にロックフォールを用意します」
不味いものは食べたくないというふたりは、野菜ひとつとっても味の濃い季節のものをと『健菜倶楽部』から取り寄せているという。
店で接客すること、食事を美味しくするためにワインを欠かさぬこと。これが夫妻の健康の秘訣だ。
確かな食材と手作りを守り、2023年秋に50周年を迎える
シテの料理の味はオーナーの関根夫妻が守り、代々のシェフがそれを具体化してきたが、
「料理の大枠を決めたら、あとはシェフに任せます。今の浜中良和シェフで9代目ですが、それぞれのシェフが新しい感性で長くても古びない料理にしてくれました」
と、進さん。一貫して譲らなかったことがふたつある。ひとつは確かな食材、ふたつ目は手作りだ。
「塩ひとつとっても、下味用の塩と調理用の塩は使い分けていますし、腸詰めやリエット(パンに塗って食べる肉料理)、ピクルス、パスタのカラスミ、パンやデザートのケーキもシェフの手作りです」
という葉子さんは、一昨年から「お家でディナー」(1万5000円、税・送料込み)というお取り寄せを始めた。自宅にいながらにしてシテの味が楽しめるというわけだ。
2023年秋、シテは50周年を迎える。記念行事を考慮中だが、
「初めてのお客様にも、わが家のように寛いでほしい、というのが私どもの願いです」
と語る。客をもてなすのが、オーナー夫妻の天職である。
※この記事は『サライ』本誌2022年2月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )