文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
2018年から発行されているタイのミシュラン・ガイド。世界的な観光地であり、また、各国企業が集まる国際都市だけあり、そのレストランのレベルの高さは以前から評判だった。最新の2021年度版では二つ星6店、一つ星22店。ビブグルマン(※1)は106店となっていて、それを裏付ける形になっている。
※1: ビブグルマンは、星の評価からは外れるが、安くてお薦め出来るレストランに与えられている賞。
また2021年度版から、バンコクだけでなく、北部のチェンマイや南部のプーケット島、パンガー島の店も紹介されるようになった。
最新版では、世界的な流れであるサステナビリティをテーマにしたグリーン・スター・アワード(※2)の店も発表された。今回のグリーン・スター・アワード受賞店は残念ながら1店のみ。昨年度の同アワード設立発表の際、簡易食堂や屋台も候補対象に入ると謳っていたのがタイの文化を考慮していて面白いと思った。
※2:グリーン・スター・アワードはサステナビリティを積極的に推進している店を評価するために作られた賞。レストランのエコシステムを調査し、サステナブルの実践と哲学しているかを判断。
タイのミシュラン・ガイド紹介店を、取材で訪れた際に感じる事がある。
1つ目は、シェフたちの研究熱心さだ。過去のタイ料理に関しての古い文献を調べる者、各地方を小まめに回って新しい食材や調理方法を探す者などなど。
例えば、プーケット島などがある南タイ料理が専門の『ソーン』。バンコクの中心部にある高級住宅街のスクンビット地区に2018年にオープン、その翌年にはミシュランで星獲得というスピード出世をした店だ。以来、3年連続で星を勝ち取っている。
南タイ出身のオーナー・シェフのスパクソーン・ジョンシリさんは地元の調理方法をとことん追及している。残されていたレシピに関する文献を探し出し、それに合わせて手間を惜しまずに料理に向き合う。ご飯は薪を使った窯で炊き、スパイスも昔ながらの石臼で挽く。そんな彼の姿勢がミシュランの星評価に結びついているのだろう。
「正直、南タイ料理はバンコクでは知名度が低く、専門店もほとんどありません。私が店をオープンする際にも周りから心配をされました。結果、ミシュランの星を頂き、南タイ料理の認知度向上に貢献出来たのではないかと思います」とジョンシリさんは言う。
外国人居住者も多くお洒落なレストランやカフェが建ち並ぶトンロー通り。ここに2017年から店を構えているのが『キャンバス』だ。エグゼクティブ・シェフを勤めているのはアメリカ人のライリー・サンダースさん。その少し「ヤンチャ」な外見通り、彼の料理も「やんちゃ」だ。
『キャンバス』という店名通り、 皿を画布に見立てたサンダースさんの感性を生かした独自の創作料理のコースが供される。料理による現代アートと呼んでも良いだろう。
自ら「僕の料理はどこの国にも属さない」と言う無国籍クイジーヌ。そのユニークな料理に欠かせないのがタイの食材だ。探求心旺盛なサンダースさんはタイ各地へ赴き、食材を探す。食材を求めて原野に踏み入る事もある程だ。
2つ目は、互いの店を「良きライバル」として認め合い、友情や協力関係を築いている事。A店のシェフがB店とコラボをしたり、仲が良いのだ。だから、取材のアポ取りも楽なもの。ある店のシェフに「今度、C店の取材をしたいんだけど」と言うと、大抵、繋がっているので、すぐに紹介して貰える。
特に長引くコロナ禍の中、互いに助け合おうという気持ちを強く感じる。
こういった彼らの関係性が、創作欲を燃やし、新たな高みへとつながっていくのだと思う。
『ソーン』のホームページ:https://www.facebook.com/Sorn-%E0%B8%A8%E0%B8%A3%E0%B8%93%E0%B9%8C-852134098291382/
『キャンバス』のホームページ:https://www.canvasbangkok.com/
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。