文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
3月31日、バンコク市内の大型ショッピングモールに、「スシロー」がタイ1号店をオープンした。日本の回転寿司チェーンの中でトップの売上高を誇る有名店のタイ進出とあって、地元タイのメディアはもとより、日本の取材陣もやって来て話題を呼んだ。
このタイ1号店、全世界のスシローチェーンの中で最大の大きさで座席数350。食事は家族や友人などと複数で食べるのが基本のタイの食文化を意識して、カウンター席なし、ボックス席のみになっている。
1皿の価格は40バーツ(約140円)。「あれ、日本より高いじゃないか!?」と思わるかもしれないが、日本からの材料輸入費用やモールのテナント代を考えると仕方ないだろう。
一応、タイの平均的な食事料金を紹介しておくと、安食堂や屋台で40~50バーツ(約140~175円)、エアコンの効いたレストランで150~250バーツ(約525~875円)といった感じだ。
ちなみに、同じ日本から進出している100円均一ショップの「ダイソー」は1品を60バーツ(約210円)で販売している。それでも、「ダイソー」は大人気で、現在タイ全土に120店以上を展開している。
話を「スシロー」に戻すと、すでにバンコクのお隣のパトゥムタニ県のショッピングモールに2号店を開店。今後、1年に4~5店のペースで出店を進める狙いだ。
ジェトロ(日本貿易振興機構)の2020年の調査によると、現在、タイの日本食レストランの数は4,094店。その中で寿司店数は1,030店と、ラーメン店や居酒屋を抑えてトップ。専門店でない店でも寿司を提供しているので、実際の数はもっと多い。
しかし、その多くが、日本人の考える寿司とは少し違う「寿司」である。江戸時代に始まった握り寿司への先祖還りのような屋台形式、ソーシャルメディア受けする奇抜な盛り付けやネタの寿司などなど。日本人が外国料理を「洋食」や「中華」として独自に進化させたように、タイ人は自分たちの口に合うように寿司を変化させているのだ。
具体的な例を紹介しよう。「SHINKANZEN SUSHI」はテイクアウトの屋台系寿司をベースに、ファストフード店のようなイートインスペースも用意。ここ1~2年で急成長し、今、タイ国内に約30店を持っている。店名の“SHINKANZEN”は、新幹線+禅という外国らしい造語だ。
価格は1貫11バーツ(約39円)から。日本の寿司店のように1皿2貫という注文方法は取っていない。
タイの寿司店で売れ筋のネタトップ2はサーモンとカニカマ。この店でも、普通の物から、マヨネーズ炙り、クリームチーズ炙り、味噌のせ6種類のサーモンがある。
また、“サーモンケーキ”と呼ばれる刺身の盛り合わせ、サーモンのカブト煮もメニューに並び、「どれだけサーモン好きなんだ!」と呆れてしまう。
タイの寿司店で刺身のセットを注文すると、サーモンと共に必ず登場するのがカニカマ。握りになったり、軍艦になったり大活躍している。この日はマヨネーズトビコのせを選んでみた。
このトビコと共に、中華ワカメ(!)もよくネタとして使われる。
味の特徴としては、全体的にすごく濃い。タイ人は「辛い」「甘い」「酸っぱい」などパンチの効いた味付けを好むからだ。
そして、何より、シャリが固い。日本の寿司のほろっと口の中でほどける状態とは全く違い、もうお握り状態だ。これもタイ人の食の好みを反映しているのだろう。
5月の末には、「スシロー」1号店がある大型ショッピングモールに殴り込みをかけるように、「MAGURO」という現地系寿司チェーンが新たに出来た。バンコクを中心に10店舗を持っている。こちらは西洋人が好きそうなアートっぽい見た目のメニューを看板にしている。
タイの寿司戦争、今後も激化していきそうだ。
スシロー・タイランドのホームページ:https://www.facebook.com/SushiroThailand/
ジェトロの2020年度タイ国日本食レストラン調査結果:https://www.jetro.go.jp/ext_images/thailand/food/JapaneseRestaurantsSurvey2020JP.pdf
SHINKANZENのホームページ:https://www.facebook.com/shinkanzensushi/
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。