大河ドラマ史上初めて明智光秀が主人公となった『麒麟がくる』。最終回から約2週間。いまだ熱気が冷めきらぬ中で、総集編が放映される。
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ライターI(以下I):大河ドラマの総集編といえば、本来年末に放映されることが多いですから、2月というのは異例ですね。
編集者A:すべてを見終わった後で、改めて総集編を見ると新たな発見があるものです。特に演者の成長、飛躍を目の当たりにすることができるのがうれしい。『麒麟がくる』での注目はやはり帰蝶(演・川口春奈)の成長ぶりでしょう。
I:最初はやや硬いかなという感じでしたが、やがて女軍師ぶりを遺憾なく発揮して、最後は貫禄さえ醸し出していました。後半出番が減ったのは残念でしたが、今後も〈大河俳優〉として戻って来てほしい存在にまで成長しました。
A:個人的は、第9話で、信長が与えた干し蛸を食する場面が総集編で登場するかどうか注目しています。
I:Aさんが帰蝶さんにコロリとやられたシーンですよね。登場したらいいですね(笑)。
A:織田信長(演・染谷将太)の飛躍も改めてしっかり見たいですね。最初は〈浦島太郎みたい〉などという人もいましたが、好演、怪演、妙演と変幻自在な新たな信長像を提示してくれました。
I:全44話が約4時間30分に凝縮されるわけですから、その成長がどう編集されているのかも注目ポイントですよね。
A:もちろん明智光秀(演・長谷川博己)の成長ぶりも忘れてはいけませんね。最初の頃清清しい青年のイメージから、どんどん渋くなっていきました。それでも1本筋が通っていて、やはり「十兵衛はいつまでも重兵衛」でしたね。
斎藤道三、織田信秀、今川義元ほか名演を見逃すな!
I:さて、美濃編、上洛編、新幕府編、本能寺編の四部構成のようです。
A:美濃編といえば、本木雅弘さん演じる斎藤道三ですよね。第17話の長良川の戦いの回は、放映前から神回の呼び声が高かったですが、実際に神回でした。
I:改めて当欄のバックナンバーを見てみると、かなり前から長良川は神回だって言い切ってましたね。尺が足りないのでは?とずいぶん早い段階から言い出していますし(笑)。それはともかく、斎藤道三と織田信長の正徳寺での会談の際には、帰蝶さんの活躍が際立ちました。当欄では〈女軍師・帰蝶〉と命名しましたね(笑)。
A:他媒体では〈帰蝶P〉との呼称が目立ちましたが、どう見ても〈女軍師〉でしたよね(笑)。そのほか、織田信秀(演・高橋克典)、今川義元(演・片岡愛之助)などの名演ぶりが話題になりました。総集編での彼らとの再会が楽しみですね。
I:上洛編では朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)が活躍し、足利義昭(演・滝藤賢一)の名演が光りました。大河ドラマに足利義昭が登場したことは多いですが、僧覚慶時代から出番があったことは特筆すべきことでした。
A:そのほか、摂津晴門(演・片岡鶴太郎)、正親町天皇(演・坂東玉三郎)など、これまであまり登場することがなかった人物にも光があてられたことは感慨深かったですね。なかなかの意欲作だったと思います。
I:そういえば、『サライ』の2020年2月号では、明智光秀特集をやりましたが、「『麒麟がくる』サライはこう見る」というコーナーで、三重大学の藤田達生教授の〈信長の時代は、新旧真逆の価値観が社会を覆い、両者が激しく対立していました。本能寺の変を起こした光秀は、信長からみれば謀反人ですが、室町幕府将軍・足利義昭からみれば忠臣でした。これまでは信長側の視点からのドラマ作りが多かったのですが、光秀側の視点からドラマがどう描かれるのか興味深いです〉という談話を紹介しています。
A:藤田先生は『明智光秀伝 本能寺に至る派閥力学』という本を出していますが、『麒麟がくる』の脚本家・池端俊策さんは、この本を読んでいるのでは?と思ってしまうことが多々ありました。
I:確かに、光秀と帰蝶はいとこ説を採用していましたし、光秀正室の煕子(演・木村文乃)のことを、後に俳人・松尾芭蕉が詠んだ句で紹介されていますし、秀吉と光秀の派閥抗争っぽく描かれていました。でもそれは、別に『明智光秀伝』を読まなくても書ける話です。
A:そうかもしれません。でも、本能寺の変の動機にかかわることに関しては、時代考証の小和田哲男先生が主張する「信長の非道阻止」に重きをおいた構成の中で、最終回で『明智光秀伝』の肝にあたる長宗我部元親の存在に触れ四国説にも言及したこと、細川藤孝(演・眞島秀和)が光秀謀反の情報を秀吉にもたらしたというシーンを見て確信に変わりました。
I:なるほど。それでは、私も『明智光秀伝』を読み返してみます。そういえば、光秀が教養豊かで京都の公家らとも対等に交流していたことなどを読んでいたので、正親町天皇と光秀の交流も違和感なく受け入れられたのは事実です。
スピンオフドラマではなく、映画化へ向かってほしい
I:その『麒麟がくる』ですが、最終回直後に「スピンオフドラマ制作」の話題がネットを賑わせました。主演の長谷川博己さんが公式ツイッターで、「続編への期待」を表明したことがきっかけです。これまで59作の大河ドラマの中で、「続編」が制作されたのは、『新選組!』(2004年)が最初で最後。しかも放映されたのは2006年のお正月。主人公は近藤勇ではなく土方歳三でした。
A:スピンオフドラマに対しては言いたいことがあります。大河は今年の『青天を衝け』で60作目。人間でいえば還暦です 。『麒麟がくる』のように話題になった作品については、インパクトのある施策を打ってほしいです。具体的にいうと大河史上初の映画化です。
I:熱量たっぷりの演技で視聴者を魅了した長谷川博己さんの光秀や、劇中での成長ぶりが抜群だった染谷将太さんの信長、さらには滝藤賢一さんの足利義昭や、川口春奈さんの帰蝶さんも大スクリーンで見られるということですね。それはぜひ実現させてほしいです!
A:製作費をどこから捻出するかなど難題は多いでしょうが、合戦シーンも通常の大河ドラマの倍くらい馬を投入してダイナミックな場面を演出してほしいですね。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり