血を分けた息子・高政(演・伊藤英明)に最期の時まで真を問い続けた斎藤道三(演・本木雅弘)。

血を分けた息子・高政(演・伊藤英明)に最期の時まで真を問い続けた斎藤道三(演・本木雅弘)。

美濃を舞台に展開してきた『麒麟がくる』が、斎藤道三(演・本木雅弘)の死で大きな転換点を迎える。長い大河ドラマの歴史に新たに刻まれた、道三と息子高政の死闘。歴史はここから大きく転換する。道三の死が、光秀、信長、帰蝶らの運命に、何をもたらすのか?

* * *

ライターI(以下I):『麒麟がくる』第1話から登場してきた斎藤道三(演・本木雅弘)が最期を迎えました。当欄では1月から〈長良川の戦いの回は神回になる〉とか〈新たな伝説が刻まれる〉とか予測してきましたが、予測以上でした。私は泣いてしまいました。

編集者A(以下A):ハンカチ必須の回でした。本木雅弘さん、高政(義龍)役の伊藤英明さんいずれも魂の演技という感じでしたね。この戦いを契機に光秀の運命、信長と帰蝶の運命も大きく転換することになります。

I:歴史の転換点の戦いだったのですね。 さて、今回は道三が、〈おもしろや この宿は 縦は十五里 横七里 薬師詣でのその道に 梅と桜を植えまぜて〉と囃し唄を謡っているシーンが印象的でした。この歌は以前も出てきましたよね。

A:第2話で守護の土岐頼純(演・矢野聖人)を毒殺した際にも謡っていたやつですよね。歌の意味とは合致しませんが、私は因果応報を印象づけられました。

I:〈そなたの父の名を申せ、父の名を申せ〉、〈黙れ、油売りの子! 成り上がり者、蝮の道三!〉――。 高政と道三のやり取りは胸に響きました。さて、今回の長良川合戦ですが、実はロケの取材に行った回ですね。

A:1月末の話ですね。関東某所の河川敷には、100人を超えるスタッフ、出演者が集まっていました。旗指物を背に、甲冑を身にまとった兵士、制作スタッフ、馬、斎藤道三、斎藤高政……。壮観でした。 しかも長良川かと見まがう場所。よくあんなロケ地を見つけてくるもんです。

I:甲冑姿の兵士が何人も寝そべっていて、何事かと思ったんですが、討ち死にして倒れている役回りでした(笑)。

A:私がもっとも目を引いたのが、斎藤道三の存在感です。もちろん待機中は、斎藤道三ではなくて、〈本木雅弘〉なわけですが、徹頭徹尾、そこにいたのは斎藤道三でした。待機中ですら、完全に道三のたたずまいを保つ。役者魂を感じるのと同時に、以前インタビューした際に語っていた〈演じることは鎮魂〉という言葉が思い起こされました。

I:まさしくそんな感じでした。馬上の道三、馬で疾走する道三、全てが道三そのものでした。

A:そして、ちょっと後ろを向けば、高政役の伊藤英明さんが殺陣の稽古をしている。皆が真剣、一丸になって作品を作っているという印象でした。

I:本木雅弘さんに密着して、3月に放映されたNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』では、制作陣がОKを出したシーンに、本木さんがリテイクをお願いする場面がありました。撮影に対するこだわりが伝わってきましたが、私たちが見学したロケの時もそんな雰囲気でした。

A:斎藤道三の辞世も伝わっています。〈捨ててだに この世のほかは なき物を いづくか終の 住処なりけむ〉――。

I:〈死んでしまえばそこで終わり、安住の地などどこにもありはしない〉という意味ですね。本木さんもインタビューなどで、この辞世に言及していました。そのことを考えると、道三×高政の最期のシーンはよりいっそう胸をうちます。

A:『麒麟がくる』第17話は、年末の総集編でも、10年後、あるいは30年後に見ても語り継がれることになるのではないかと思います。今年小学生だった子が大人になって見ても「ああ、やっぱりこの回は神回だった」って。

道三から信長に託されたもの

I:1973年の大河ドラマ『国盗り物語』では、道三が信長に「美濃を譲る」という「国譲り状」をしたためるシーンがありました。国譲り状は、大阪城天守閣所蔵のものなど、何通か残っているみたいですね。実際に道三の手によるものなのかはわかりませんが、ロマンを感じます。

A:〈美濃国の地、終に織田上総介の存分に任すべきの条、譲状信長に対し送り遣わし候事〉というやつですね。心情的には、道三によるものだと信じたいですね。親子兄弟骨肉の争いが当たり前の戦国時代にあって、道三・信長がなぜこれ程の絆で結ばれたのかが個人的には謎だと思っています。もともと信長と帰蝶は政略結婚ですからね。

I:村木砦の戦いの際には、道三が信長に援軍を送っていましたが、長良川の戦いに際しては、信長が自ら出陣しています。『麒麟がくる』ではふたりの間を帰蝶が仲立ちしている風に描かれていますが、実は意外と史実でもそれに近いものがあったのかもしれませんね。

A:ドラマや小説などではあまり描かれることはありませんが、信長は道三の末子を家臣に取り立てています。斎藤利治といいますが、信長の天下統一戦線に数多く従軍しています。道三から国譲り状を託されて、信長のもとに持参したともいわれています。

I:へぇ、そういう人物がいたのですか。

A:長良川合戦では高政側について道三と戦った稲葉良通(演・村田雄浩)は、後に信長に寝返りましたが、利治とともに従軍したこともあるようです。どのような思いだったのか興味深いですが、利治は、後には信長の嫡男・信忠の側近として遇されました。本能寺の変の際、信忠とともに討ち死にしています。本能寺の変が起こらなければ、織田家の重臣に昇りつめて大国の城主となったのではないでしょうか。

I:孫四郎や喜平次などかわいがっていた息子たちを暗殺された道三は、末子の利治を信長と帰蝶に託したということですね。『麒麟がくる』では帰蝶は〈女軍師〉の如き扱いですから、道三が信長に託したものとは何か、史料では読み解けない解釈で私たちをうならせる展開を期待したいですね。

A:いよいよ次週から越前編が始まります。光秀の飛躍の地です。どんな物語が紡がれていくのか、楽しみでしかないですね。

大河ドラマ史に残る名演技となった本木道三。

大河ドラマ史に残る名演技となった本木道三。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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