生ハムに燗酒!? 大塚『29rotie』が提案する驚きのマリアージュ【東京下町の美味探訪5】

文・写真/秋山都

東京・大塚は、大正13年に“三業地”の許可が降りた花街だ。三業とは「料亭」「待合」「芸者置屋」の3種であり、三業地とはそれらの業種が許された、いわゆる花街を指す。

大塚の花街は、昭和30~40年代に全盛を迎え、数十軒の料亭が立ち並ぶなど大いに賑わったそうだ。今もその残り香をあちこちに見ることができる。

そんな大塚の、その名も「大塚三業通り」を歩くこと数分。今回の目的地である「29 rotie(ニーキューロティ)」が見えてくる。

「29」の意匠が印象的な店の前で店主の江澤雅俊さん。

以前本欄で和菓子と日本酒というユニークな組み合わせをご紹介したが、「29 rotie」もそれに負けず劣らぬ驚くべきマリアージュを追求している店である。

その組み合わせとは、イタリア・パルマ産などの本格的な生ハムと日本酒、それも燗をした酒とを合わすという荒技だ。いったいどうしてこんな組み合わせになったのだろうか。店主の江澤雅俊さんに話を聞いた。

「ものすごく旨い生ハムに出会ったのがきっかけです。練馬にあった「サルメリア69」(現在は成城学園前に移転)という店ですが、店主がとにかくマニアックで、とことん旨いハムやサラミにこだわっているんです」

そして、その品揃えとクオリティに傾倒するがあまり、自分の店にも数字をつけたという。つまり「サルメリア69」のインスパイア系が「29 rotie」というわけである。

生ハム・サラミは注文が入った分だけその場でごく薄くスライスする。その薄さゆえのはかない口当たりも美味しさの秘密。

生ハム類はサラミもまじえて常時8種ほどをラインナップ。もちろんひとことで生ハム・サラミといっても産地や製法、また豚の部位によって風味は大きく異なる。この日は24ヶ月熟成の「プロシュート・ディ・パルマ」、ピンクペッパーとローズマリーで華やかにデコレーションされた「ローザ・ディ・ノルチア」、そして豚の頬を使って脂身がうまい「グアンチャーレ」の三種をセレクトしてもらった。

合わせた酒は北島(滋賀)の生酛を燗で。芳醇なタイプが生ハムと相性がよいという。

そしてこの生ハム・サラミを迎え撃つのは日本酒の燗酒! 江澤さんによれば「生ハムにはもちろんワインもあいますが、ぼくは日本酒のほうがおいしく感じます。とくに燗酒は肉の脂が燗の熱でほどよく溶けるからおすすめです」という。

実際にこの飲み合わせを試してみると、生ハム単体で口にしたときより、燗酒を供にすることで、香りや旨味がより濃く、広がりをもって立ちのぼってくるのがわかった。一片の花びらのようにはかない生ハムをヒラリヒラリと口へ運び、燗酒をグビリ。ヒラリヒラリ、グビリ。気づくとあっという間に一皿(と徳利)が空になった。

この驚異のマリアージュ、ぜひ体験いただきたい。

ちなみに、この店ではタンドーリ(インドの焼き窯)を使った肉のロティ(ロースト)料理も名物だ。タンドーリチキンはもちろん、窒息ガモやフランスのシャロレー牛などマニアックな品揃えで、食通の舌を満足させてくれるはずだ。

【今日の下町美味処】
『29rotie』
■住所/東京都豊島区南大塚1-23-8 はらだ荘 1F
■アクセス/JR「大塚」駅徒歩8分
■電話/03-6902-1294
■営業時間/18時〜24時
■定休日/水曜

文・写真/秋山都
編集者・ライター。元『東京カレンダー』編集長。おいしいものと酒をこよなく愛し、主に“東京の右半分”をフィールドにコンテンツを発信。谷中・根津・千駄木の地域メディアであるrojiroji(ロジロジ)主宰。