新緑の京都で雨が似合う美景スポットを巡る【風景写真家・原田寛の旬景散歩】

■京都の街には雨がよく似合う

京都では、サクラや紅葉が圧倒的な人気だが、古都専門の写真家として正直な感想をいわせてもらえば、鮮やかな緑が日に日に濃くなっていく今の季節が一番好きだ。新緑は歴史と伝統のある古社寺の木造建築と対比しても目立ち過ぎず、古都らしい佇まいに寄り添っているように感じる。

しかも、新緑は雨の中で見ると一層美しい。雨に濡れた石畳もしっとりするし、屋根にも趣がある。古都には雨もよく似合うのである。古来、日本人は季節の移り変わりの中で微妙に変化する自然の営みに注目してきた。萌黄(もえぎ)から早緑、若緑、青緑、深緑と、木々の緑はそんな日本的な伝統文化にぴったりの色の変化をみせてくれる。

 

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清水寺の舞台から見た新緑と三重塔。塔の朱色が緑の中に浮かび上がる。

京都には古くから「雨見」という言葉があることを知った。雨に濡れた新緑の微妙な表情を愛でようと、清水寺あたりに出かけることをいうのだという。雨をうっとうしいと感じるのではなく、かえってそれを楽しんでしまおうというころに京都人の文化度の高さに感じ入った。

 

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雨に濡れて艶やかさを増した擬宝珠(ぎぼし)も絵になる。

ところが、なかなか雨とタイミングが合わずにいた。昨年、ようやく雨の新緑に出会うことができ、清水寺の開門早々、まだ人影のない時間に思う存分撮影することができた。撮影前から特定のイメージを描いてしまうと、満足な状況に出会うまでに、どうしても何年もかかってしまう。

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清水の舞台の懸造り(伝統工法を使って崖などの斜面に建物を造ること)は下から見上げるとじつに風格がある。欅(けやき)の柱と新緑の対比が美しい。

雨の中をそのまま、賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ/通称、上賀茂神社)に移動してみた。新緑というと、ついカエデを思い浮かべがちだが、境内を流れる御手洗川(みたらいがわ)のほとりで一株だけ、美しいシダの葉を見つけた。川面に映り込む緑も、新緑の季節ならでは。岸辺の岩やコケもしっとりとしていて、やはり古都には雨が似合うと確信した。

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見落としがちな御手洗川のシダを構図の中に取り込むことで写真の見え方が違ってくる。

■地元で評判の店を探すのも楽しみのひとつ
雨といえば古都の路地も魅力的である。濡れた石畳を撮影しようと花街・上七軒(かみしちけん)に向かった。

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雨で石畳がしっとり濡れた、古都情緒が漂う上七軒の町並み。

撮影後、蕎麦好きの関東人としては、そんな路地にも蕎麦屋があることに惹かれ、創業昭和4年の『上七軒 ふた葉』で昼食をとることに。関西では「きつね」と「たぬき」の関係が関東とは違うらしいという程度の知識はあったのだが、それでも関東人には注意が必要。いつもの調子で「たぬき」と注文すると、天かすがのった蕎麦ではなく、「きつねうどん」のあんかけがでてきた。これが京都流。関東流の「たぬき蕎麦」を待っていた蕎麦好きの私としてはちょっと残念。

そこで、次の機会では、満を持し「たぬき蕎麦」と正確に注文した。希望通り、きつねのあんかけ蕎麦を賞味できて、今度は大満足。しかも蕎麦が茶蕎麦で、いかにも茶処の京都らしい。これこそ”撮影飯”の醍醐味である。ちなみに、きつねとたぬきの化かし合いは、同じ関西でも大阪と京都では流儀が違うらしいのでご注意を。

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『上七軒 ふたば』の、出汁に生姜がピリッときいた「たぬき蕎麦」650円。

ここで「原田寛流  撮影飯の3か条」を披露しておくと、1.安価であること、2.スピーディであること、3.おいしいこと。

地元住民が贔屓にしている人気店を探すのも撮影旅行の楽しみのひとつだし、私が住む鎌倉との文化の違いに気づかされることも多い。

【上七軒  ふた葉】
「けいらん」650円や「のっぺい」700円、「おぼろ」700円など、あんかけのメニューは、出汁がよく絡んで京都らしさを感じさせてくれる。

住所/京都市上京区真盛町719
TEL/075-461-4573
営業時間/11:00〜19:00(L.O.18:45)
定休日/水曜
アクセス/市バス50系統で上七軒バス停下車、徒歩約3分

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文・写真/原田  寛(はらだ・ひろし)
1948年 東京生まれ。1971年 早稲田大学法学部卒業。鎌倉を拠点に古都や歴史ある町並みを撮り続け、鎌倉の歴史と文化・自然の撮影をライフワークとしている。鎌倉風景写真講座を主宰し後進の指導にもあたる。作品集は『鎌倉』『鎌倉Ⅱ』(ともに求龍堂)『四季鎌倉』(神奈川新聞社)『花の鎌倉』(グラフィック社)など多数。