文・写真/原田 寛
私の地元・鎌倉よりやや早く、京都では11月下旬に紅葉が最盛期になる。あまりに有名な紅葉名所がたくさんあるが、今回は一般観光客が見落としがちな名所をご紹介しよう。この季節、市内は大混雑になるが、ちょっとした工夫をすれば意外なほど静かな寺社境内を堪能できる。
■1:小雨に煙る東福寺の紅葉(京都市東山区)
京都を代表する紅葉名所のひとつで、日中はものすごい数の観光客で騒然としている。ところが、こんな有名な場所でも早朝は驚くほど静寂に包まれている。定番の臥雲橋から通天橋方向の紅葉を眺めるには、8時半の開門時間に先駆けるのがお勧め。
京都の紅葉狩りでは、中心部の寺社は開門前後の早い時間帯に訪れるのがポイント。昼間は中心部を少し離れて、周辺部を巡れば交通渋滞も避けられ、静かな境内で心ゆくまで紅葉を楽しむことができる。
■2:下御霊神社のイチョウ落葉(京都市中京区)
京都御苑の南東角、寺町通りに面している。歴史は桓武天皇の時代にさかのぼる古社で御霊信仰のルーツのような神社。、現在の社域はそれほど広くなく、あまり観光化もされていないので市内中心部の神社にしてはめずらしく静かな境内である。中心部にあってもこのような静寂な神社を探すのもポイントのひとつ。
社殿周囲に巡らされた塀の外側一面に散り敷くイチョウの落葉は見ごと。拝観者も少ないので、いつ訪れても無人撮影に支障がなく、写真愛好家には願ってもない撮影地である。
■3:紅葉を背にした祇王寺境内(京都市右京区)
嵐山一帯は京都市内でも有数の観光名所。とくに渡月橋や天龍寺周辺は人影が途切れることがないほどの混雑になる。昼間は駐車場も満車になることが多いので、早い時間帯に天龍寺駐車場を確保して、周辺を徒歩で巡るのが嵯峨野散策のポイント。この周辺では祇王寺や落柿舎、二尊院など、北部が比較的人影が薄くなる。
開門と同時に祇王寺を訪れてみると、境内ではまだ、コケの上に散った落ち葉の掃除をしている最中だった。こんなことも時間配分の成果で、美しいコケの緑の背後に紅葉を対比することができた。
■4:色とりどりの八瀬の紅葉(京都市左京区)
比叡山にのぼるケーブルカーの八瀬比叡山口の周辺は、比叡山の西麓、高野川の流域の一帯。春のサクラとともに紅葉の季節にも京都で自然風景を撮影するには絶好の場所である。市内を移動中に小雨が降り出したので、山並に霧がかかるのを期待して向かった。
昨年は京都でも歴史的といって良いくらい紅葉の状態が悪かったが、それでも山陰にあることが幸いしたのか、期待通りの撮影ができた。自然相手の撮影は、被写体の状態を見極めるのが大切だが、意外な場所に恵まれた環境が待っていてくれる時もある。
■5:上賀茂神社の立砂と紅葉(京都市北区)
境内が広いためか、神事の日を除けばこの社もそれほど混雑することはない。二の鳥居をくぐると目の前に左右一対の立砂がある。円錐形に形が整えられた砂がとても印象的。向かって右側の頂上部分には2本、左側には3本の松葉が差してある。正確な意味はわかっていないが、ここに神が降臨するといわれている。
シンプルな光景だが神秘的で、何か深い意味が宿っていそうな雰囲気がとても気に入っていて、訪れるたびに新しいアングルを探している。春のシダレザクラや夏の深緑を背景に撮影しているが、もちろん秋は紅葉。「京のかたち」の代表格のひとつではないだろうか。
■立ち寄り処:イノダコーヒ本店
京都市内に6店舗展開しているが、個人的には本店が圧倒的に気にいっている。ただ、細い道に面しているので、さすがに正確な場所までは記憶できずに、いつもカーナビに頼っている。通い始めのころ、「イノダコーヒー」と入力しても該当なしと表示されてしまう。かなり有名な店なのにと思いながら「イノダコーヒ」と音引を削除したら表示された。こんなところにも関東と関西の言葉の違いを感じてしまった。
日頃の撮影飯ではそれほどゆっくりする暇はないが、紅葉シーズンに混雑を避けて早朝撮影した後、ちょっとご褒美感覚でこの店を訪れることがある。定番は「京の朝食」(1230円)。ボンレスハムにふんわりスクランブルエッグ、彩り豊富なサラダにクロワッサン、これにジュースとコーヒーまたは紅茶がセットになっている。
パンの消費量日本一という土地柄らしく、京都人の朝はこれといった気分にひたれる。
【イノダコーヒ本店】
住所:京都市中京区堺町通三条下ル道祐町140
TEL:075-221-0507
受付時間:7時〜19時
アクセス:地下鉄烏丸御池から徒歩約5分
文・写真/原田 寛(はらだ・ひろし)
1948年 東京生まれ。1971年 早稲田大学法学部卒業。鎌倉を拠点に古都や歴史ある町並みを撮り続け、鎌倉の歴史と文化・自然の撮影をライフワークとしている。鎌倉風景写真講座を主宰し後進の指導にもあたる。作品集は『鎌倉』『鎌倉Ⅱ』(ともに求龍堂)『四季鎌倉』(神奈川新聞社)『花の鎌倉』(グラフィック社)など多数。