武家の古都・鎌倉の「夏の美景」5選【風景写真家・原田寛の旬景散歩】

いくら鎌倉の夏が静寂だと言っても、さすがに暑さにめげてしまいそうな季節。それでも、暑さをしのぐ工夫をしながら巡ってみれば、この季節にしか出会えない魅力的な風景がある。(文・写真/原田 寛)

■1:光明寺と夏の海(材木座)

海辺の古都・鎌倉らしい夏景色。

海辺の古都・鎌倉らしい夏景色。

夏景色を楽しめるのは花に限ったことではない。材木座海岸からほど近い光明寺の裏山に登ってみると、壮大な山門を前景に弓なりに伸びる由比ヶ浜を展望することができる。海のある古都・鎌倉だけの絶景。遠く離れていても、海浜部の賑やかさが伝わってくる。

地形の関係なのか、鎌倉では写真を撮りやすい位置になかなか入道雲が出てくれない。この場所もその一つで、何とか美しい雲の峰に出会うことができた。

ただ、雲の間から富士山が覗いているのが理想だとイメージできていても、未だそのチャンスには出会えていない。風景写真は、根気強く通い続けるしか方法がない。

■2:本覚寺のサルスベリ(小町)

夏の鎌倉を代表する花風景、サルスベリと本覚寺夷堂。

夏の鎌倉を代表する花風景、サルスベリと本覚寺夷堂。

鎌倉では、7月の花がハスとノウゼンカズラなら、8月はサルスベリとフヨウの季節。写真好きは暑さにもめげず、サルスベリの花姿を追い求めて、鎌倉中を巡っている。この花の代表格は小町にある本覚寺だ。

奈良や京都と違って、塔の見える風景が藤沢市の龍口寺しかない鎌倉では、九輪と水煙をいただいた夷堂の屋根がとても新鮮に感じられる。この屋根を背景にしたサルスベリの写真を撮ろうと、青空の日には多くの写真愛好家が集まってくる。

■3:熊野神社のヤブミョウガ(横浜市金沢区)

山中にひっそりと佇む花景色。

山中にひっそりと佇む花景色。

十二所から朝夷奈切通に入っていくと、峠を越えたあたりに分岐があり、ここを右折すると熊野神社にでる。鎌倉市と横浜市の市境に当たる場所で、正確には横浜市金沢区になる。

夏の暑い盛りに切通を散策するのは余程の物好きと見えて、人影はほとんどない。もちろん、撮影目的でも訪れることもなかったが、10年ほど前に偶然ハイキングで訪れてみると、社前の杉林の中に、一面ヤブミョウガが咲いているのを発見した。狭い鎌倉にも、くまなく回っていれば、まだまだこんな未発見の名所があることに驚かされた。

この花は地味な花姿なのであまり目立たないが、注意していると寺社境内でも数株程度は見かけることが多い。しかし、これだけの群生となると鎌倉では唯一。晴れていると杉林の影がうるさくなると見越して、雨日を狙って訪れて見ると、しっとりした風情の中で壮観な花風景を撮影することができた。

■4:路地から覗く海浜風景(坂ノ下界隈)

休日には沖合の白い帆も数を増す。

休日には沖合の白い帆も数を増す。

鎌倉の魅力の一つに、路地風景があげられる。幸い戦災を免れた鎌倉では、いたるところに路地が残されていて、地元住民には雑踏を避けて路地をぬうように移動する習慣がある。その路地の奥には寺や神社、洋館、江ノ電などが覗いていて、そんな発見も楽しみのひとつ。もちろん、夏の路地の奥には、爽やかに広がる海が似合う。

マリンスポーツが盛んな鎌倉の海岸では、撮影するタイミングをちょっと待っていれば、路地の奥をサーファーが通りすぎることもある。一見何気ないカットのようだが、自転車でサ−フィンに向かう姿も平野部の狭い鎌倉ならでは。どこに住んでいても海が比較的近いからで、他地域では、自転車がバイクや車に置き換えられるようである。海上のヨットやウインドサーフィンは週末を狙うと数が多くなる。

■5:日傘と浴衣と江ノ電と(御霊神社前)

全国人気の江ノ電風景も夏模様。

全国人気の江ノ電風景も夏模様。

近年、鎌倉では地元住民も観光客も、浴衣で散策する人が増えているように感じる。なんでもが洋風化した戦後の文化に対する反動なのかもしれない。近年は黒い日傘が流行のようだが、見た目はやはり白い傘が夏を感じさせる。そして、浴衣には素足と下駄が似合う。

繁華な小町通りあたりでも、浴衣姿の若いカップルを見かけることは多いが、江ノ電が通る路地などで偶然浴衣姿を見かけると、鎌倉らしい夏の情景を感じて思わずカメラを向けてしまう。

■立ち寄り処:鎌倉の名店『つるや』のうなぎ

うな重は2,376〜4,752円、二段中入れ重は4,752円。写真奥の白焼きは2,376〜4,752円。

うな重は2,376〜4,752円、二段中入れ重は4,752円。写真奥の白焼きは2,376〜4,752円。

創業から90年近い歴史を刻むうなぎ専門店で、かつて川端康成などの文豪にも愛されていた。ミシュランガイドにも掲載されている名店で、現在は三代目が暖簾を守っている。

注文を受けてから捌くので提供されるまでに40〜50分ほどかかるが、事前に予約してから来店すればまたずに食べられる。網代天井や古色を纏った柱にも昭和の風情が感じられる店内で、ゆっくり焼きあがるのを待つのも良いが、私は毎年土用の丑の日前後に、混雑を避けて出前で楽しむことにしている。

屋号の鶴がデザインされた鎌倉彫の重箱を開けると、しっかり蒸してから備長炭で焼かれた、ふんわり柔らかな食感の鰻が顔を出す。甘さ控えめで薄味のタレは、創業以来継ぎ足し続けているという。価格の違いは鰻の大きさなので、腹具合に合わせて注文すればよい。個人的には年に一度の贅沢なので、アテに白焼きも注文している。

関西に行く機会が多い私だが、やはり鰻は関東で味わいたいと思う。地域の特性で、関西の住民は真逆の感想を持つのだと思うが、関東人には蒸さない関西の鰻はパリパリに感じて、関東のふっくら、とろけるような鰻の食感が舌に染み付いた人間には違和感がある。

【つるや】
住所:神奈川県鎌倉市由比ヶ浜3-3-27
電話:0467-22-0727
営業時間:11:30〜19:00
定休日:火曜(祝日は営業)
アクセス:JR鎌倉駅西口から徒歩10分

photo
文・写真/原田  寛(はらだ・ひろし)
1948年 東京生まれ。1971年 早稲田大学法学部卒業。鎌倉を拠点に古都や歴史ある町並みを撮り続け、鎌倉の歴史と文化・自然の撮影をライフワークとしている。鎌倉風景写真講座を主宰し後進の指導にもあたる。作品集は『鎌倉』『鎌倉Ⅱ』(ともに求龍堂)『四季鎌倉』(神奈川新聞社)『花の鎌倉』(グラフィック社)など多数。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で