【山本益博の「ひと皿の歳時記」~第131回】

まぐろ。

まぐろの漬けの握り。

日本一の米どころとして知られる新潟県の南魚沼、それも八海山のふもと、新幹線の駅でいえば浦佐にほど近いところに『龍寿し』はあります。

先日、この店で鄙にも稀な握り寿しをいただいてきました。寿しは、じつは酢めし、つまり「飯」を食べる料理です。とはいえ、新米を炊いて握っても、ご飯は粘るだけ。米粒が口の中でほどけず、寿し種と渾然一体になりません。古米を枯らしてから炊き上げると、ほどよい酢めしができあがります。

こはだ。

こはだの握り。

あなご。

あなごの握り。

『龍寿し』の酢めしは、もう少し酢が効いていてもいいかなとは思いましたが、地方の寿し屋さんの酢めしにしては、かなり上等なできばえです。

この酢めしに、まぐろの漬け(赤身を醤油につけたもの)、こはだ、穴子の「江戸前トリオ」が、じつにいい相性を見せてくれました。とりわけ驚いたのが「こはだ」です。こはだは扱いが非常に難しく、締め方が足りないために水っぽくなったり、中には生臭さを感じるものも少なくありません。

その点、『龍寿し』では、しっかり酢締めされたこはだが姿良く握られ、本物の「江戸前」を彷彿とさせます。握りの姿というのは、昔から「扇の地紙」の形に握るようにと、寿し職人の間で伝えられてきました。握りを横から見ると、理想的な流線型に握られていて、しかも、寿し種と酢めしのバランスがとてもいいのです。

さらに、地元ならではの握りとして「椎茸のコンフィ」が出てきました。

肉厚の椎茸を油煮にしたもので、滋味に富んでいて、口に含んだときの食感がなんと、アワビそっくりです。同店の寿し職人・佐藤さんは40代。親である先代の跡をついだ2代目ですが、寿しの握り方などは、ほとんど独学だそうです。季節を変えて、また訪れたい寿し屋さんです。

椎茸のコンフィ。

食感がアワビそっくりな椎茸のコンフィ。

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主人の佐藤さん(向かって右)と。

■龍寿し
住所/新潟県南魚沼市大崎1838-1
TEL/025-779-2169
営業時間/平日18:00~22:30(L.O.22:00)
日曜・祝日18:00~21:30(L.O.21:00)
昼12:00~13:30(要確認、酢めしがなくなり次第終了)
定休日/水曜日(予約の状況で変更の場合あり )
http://www.ryu-zushi.com/

文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。

 

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