【京都 美の鑑賞歩き】 城南宮(京都市伏見区)

京都では毎年、春と秋に通常は非公開の仏像や建築、絵画、庭園などが「特別公開」される。この催しは「京都非公開文化財特別公開」と呼ばれ、この春で通算69回を数える。今回は初公開となる4寺を含む17の社寺で開催されている。京都を訪れた際はぜひ、普段見ることのできない「伝統の美」の数々にふれてみてはいかがだろう。

「曲水の宴図屏風」(部分)。貴族たちの優美な遊びを伝える名品。城南宮ではいまも春と秋に「曲水の宴」が開かれる。今年の秋は11月3日の開催。(『(城南宮)曲水の宴図屏風』写真提供=京都古文化保存協会)

『曲水の宴図屏風』(部分、城南宮所蔵)。貴族たちの優美な遊びを伝える名品。城南宮ではいまも春と秋に「曲水の宴」が開かれる。今年の秋は11月3日の開催。写真提供/京都古文化保存協会

      
■自然豊かな地に築かれた離宮の鎮守社

京都市の地下鉄烏丸線竹田駅から西南方向へ約15分歩いたところに城南宮(じょうなんぐう)がある。この社は延暦13年(794)、京都に平安京が造られたときに始まるとされる。平安時代の後期、白河・鳥羽両天皇はこの伏見の地に鳥羽離宮を営むと、城南宮を離宮の鎮守社として祀(まつ)った。

では、なぜ、この地に離宮が造られたのか。

じつは京都に都ができるはるか以前から、現在の伏見区一帯は「巨椋池(おぐらいけ)」という広大な湖であった。京都を流れる鴨川や桂川、琵琶湖に端を発する宇治川などは、いったん巨椋池に流れ込み、淀川を経て大阪湾に連なっていく。つまり、巨椋池は琵琶湖と大阪湾を結ぶ舟運の中継地であり、しかも大規模な自然に恵まれた景勝地。まさに離宮を造営するにふさわしい地形だったのである。

豊臣秀吉がこの巨椋池の北東側に伏見城を築いたのは、もちろんこの地一帯の交通の要をおさえるためであった。ちなみに、巨椋池は昭和10年前後にすっかり埋め立てられ、かつてこの地に巨大な水がめがあったことは、いまではすっかり忘れ去られている。

 

■平安のみやびな文化を今に伝える作品

鳥羽離宮の鎮守社という歴史をもつ城南宮には、平安時代の面影をいまに伝える多くの文化財が残っている。現在、開催されている特別公開では、第一会場が「曲水(きょくすい)の宴と年中行事」、第二会場が「京都・洛南を歩く」をテーマに、城南宮が所蔵する貴重な作品を展示中だ。

第一会場でぜひ鑑賞したいのは、『曲水の宴図屏風』。作者は江戸時代に活躍した画家・吉田元陳(よしだげんちん)である。さらに、江戸時代後期の画家・円山応挙(まるやま・おうきょ)の孫である応震(おうしん)の曲水図なども展示されている。

「曲水の宴」とは、平安貴族が楽しんだ雅な行事のひとつで、小川のかたわらに何人もの貴族が座り、上流から流れてくる自分の酒杯が手元に流れ着くまでに歌を詠むという風流な遊びである。読み終えることができなければ、無理やり酒を飲まされることになる。もともと、中国の書聖・王羲之(おうぎし、307~365)が親しい友人を招いて初めて行なった遊びで、やがて日本に伝わって流行した。一説では、王羲之の仲間には酒が飲みたく、わざと詩を作らなかった者がいたという。

一方、第二会場で公開されている『皇都春景図』は初公開となる作品で、幕末の京都を描いた鳥瞰図である。時は春、都の各地に桜が満開である。作者は江戸時代後期の絵師・三村晴山(みむら・せいざん)。京の都を俯瞰した絵といえば『洛中洛外図屏風』が名高いが、この作品は、それとはまた異なった華やかな趣(おもむき)をたたえている。

「皇都春景図」。江戸末期の京都の景観を描いた貴重な作品。(『(城南宮)皇都春景図』写真提供=京都古文化保存協会)

『皇都春景図』(城南宮所蔵)。江戸末期の京都の景観を描いた貴重な作品。写真提供/京都古文化保存協会

      
さて、城南宮は「方除(ほうよ)けの大社」として全国から多くの参拝者が訪れる。「方除け」とは「方位除け」のこと。人にはそれぞれ吉凶の方位がある。引っ越しや通勤・通学、あるいは旅行の折に凶の方向に向かうときは、お祓いをしてもらうとよい。

 

【城南宮】
住所/  京都市伏見区中島鳥羽離宮町7
公開期間/4月29日(金・祝)~5月8日(日)
拝観時間/9:00~16:00(受付終了) 
拝観料/800円 

   
文/田中昭三
京都大学文学部卒。編集者を経てフリーに。日本の伝統文化の取材・執筆にあたる。『サライの「日本庭園」完全ガイド』(小学館)、『入江泰吉と歩く大和路仏像巡礼』(ウエッジ)、『江戸東京の庭園散歩』(JTBパブリッシング)ほか。

 

 

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