名刀を鑑賞するなら、刀を愛した戦国武将や、高名な刀匠が作刀に勤しんだ産地こそふさわしい。武将ゆかりの尾張(愛知県)、刀匠ゆかりの備前(岡山県)を旅してみたい。
奉納者の銘が残る実阿の名作
太刀銘 元弘三年六月一日実阿作
名刀の旅(1) 尾張
熱田神宮宝物館 ●名古屋市熱田区
御神体の草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)を慕った武将が奉納した、数多の刀剣を公開
尾張・名古屋で約1900年にわたって鎮座する熱田神宮は、三種の神器のひとつ、草薙神剣を御神体として祀る神社である。境内に立つ宝物館が収蔵する約6000点の御宝物のうち、450点が刀剣だ。学芸員の内田雅之さん(51歳)がこう語る。
「当社に伝わる刀剣は、草薙神剣に想いを寄せた皇室や武士、一般の町人まで、様々な立場の方々が奉納したものです。その目的も様々で、国家安泰や戦勝祈願、もしくは願いごとが叶ったお礼に献納された刀剣もあります」
熱田神宮は戦国時代に入ると武士の篤い信仰を受けるようになった。尾張出身の豊臣秀吉や三河出身の徳川家康の家臣が、戦勝を祈願して刀剣を奉納した伝承も残されている。重要文化財『太刀銘元弘三年六月一日実阿作』のように、“守勝”と奉納者の名が刻まれた刀剣も少なくない。内田さんが解説する。
「神秘的で美しいものには、生命や神が宿ると考えられていました。そんな刀剣は、武士にとって自らの分身といえる存在。神に捧げたいと願う気持ちも必然だったといえるでしょう」
高名な刀匠が奉納した刀剣も多い。卓越した技を神に披露したいという自信の表れか、優れた出来栄えの作品が多いそうだ。
信仰の力を感じる御宝物
刻まれた彫刻からも、奉納者の想いが読み解ける。『太刀 銘 豊後国行平作』の刀身には、大日如来の化身である不動明王を暗示させる、鱗が丁寧に彫られた倶利伽羅龍の透彫が施されている。
「おそらく奉納者は武士でしょう。戦闘のここ一番の場面で、神仏の力を借りたいという願いから、倶利伽羅龍が刻まれた太刀を奉納したのかもしれません」(内田さん)
人々の信仰心が、熱田神宮に多くの刀剣をもたらしたのである。
太刀 銘 豊後国行平作
●熱田神宮宝物館
愛知県名古屋市熱田区神宮1-1-1 電話:052・671・0852 開館:9時~16時30分(入館は16時10分まで) 休館日:毎月最終水曜とその翌日、12月25日~31日 入館料:300円 交通:名古屋鉄道神宮前駅から徒歩約5分。名古屋市営地下鉄神宮西駅または伝馬町駅から徒歩約10分 令和2年4月9日(木)~令和2年5月6日(水) 臨時休刊致します。※状況により休館期間を延長させて頂く可能性もございます。
立ち寄り処 あつた蓬莱軒
参拝者に愛され続ける名古屋の郷土料理を堪能
明治6年、熱田神宮の門前町に料亭として創業。2代目店主が明治半ばにひつまぶしを考案。
●あつた蓬莱軒
愛知県名古屋市熱田区神戸町503 電話:052・671・8686 営業時間:11時30分~14時(最終注文)、16時30分~20時30分(最終注文) 定休日:水曜、第2・第4木曜(祝日の場合は営業) 交通:名古屋市営地下鉄伝馬町駅から徒歩約7分 席数180。
※この記事は『サライ』本誌2020年5月号より転載しました。
取材・文/山内貴範 撮影/高橋昌嗣