【サライ・インタビュー】
ジュディ・オングさん(歌手、女優、木版画家)
――子役からの芸能歴は60年。人生を大いに愉しみ、なお夢に挑戦――
「これからは毎日をお正月にしよう」古稀を迎えて、そう決めたんです
※この記事は『サライ』本誌2020年5月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。(取材・文/佐藤俊一 撮影/宮地 工)
──70歳の記念ライブをされました。
「ええ。『バースディ・ライブ』は4度目になりますが、今年は私も70歳、古稀を迎えたことが、いまの一番のトピックスです(笑)。
昔は70歳と聞けば、炬燵で居眠りをしているお婆ちゃんのイメージですが、いざ自分がその年齢になってみたら、全然そうじゃない。心が若ければ、何も諦めることもなく、夢を持ち続けられる、挑戦ができます。
古稀とは、唐代の杜甫の漢詩『曲江』にある“人生七十古来稀”に由来するそうです。杜甫は、70歳まで長生きするのは稀だから、今のうちに人生を大いに愉しもうよとうたっています。唐の昔の70歳は、現在の120歳くらいの感覚かもしれませんけどね。私が古稀になって思ったのは、これまで以上に今を素敵に生きようということ。そのため“毎日をお正月にしよう”と決めたんですよ」
──具体的に何かなさるのですか。
「お正月がもう何回くるかわからないでしょう。だから、年1回しか出さなかった特別な漆器でも何でも惜しみなく使う。例えば脚の長いゴブレット型の漆器にモズクやメカブをちょっと盛ってみるとかね。それだけでも、食卓が立体的になって、凄く愉しい。
高価なグラスを割っちゃうのが怖い、傷つけちゃうのが怖いなんて思っているうちに、人生が終わってしまいます。これ素敵だなと思ったら、毎日の生活のなかにどんどん入れてゆく。朝のコーヒーカップも〈きょうは青空だから、ブルー一色のマイセンで飲もう〉とかね。そうやって、日々を生きていることが素敵になるように、飲む、食べる、お化粧をする、お洋服を選ぶ。そのひとつひとつを丁寧に楽しむのが、今の私の暮らし方です」
──ずっとお正月が続くわけですね。
「そう、きっかけは何でもいい、70歳じゃなくていいんですよ。悲しいことがあったときこそ、気持ちをリフトアップする。自分をプッシュアップする。“その日”を決めて、次の人生があるのよと踏み出せばいいんです。
どんどん泣いてもいい、そのほうがあのとき“素敵ね”と思った気持ちが残りますから。何がないということよりも、何があるってことを考えて、そこに自分を置く。そうやって前を向いて生きてゆくことが大事、でないと自分が廃墟になってしまいます」
──ジャズのアルバムも出されました。
「『ALWAYS』は、私の初めてのジャズ・アルバムです。スタンダード・ジャズは3歳の頃から聴いていた子守唄みたいなものですから、身体に染みついて、私の一部になっています。今回は1950年代から’60年代にかけて流行った、日本のスタンダードになっている歌に『蘇州夜曲』を加えました。選曲はもちろん、音の構成も含めて、一から十までぜんぶに携わってつくったんです。
曲のひとつひとつに、私自身の想い出のストーリーが重なっています。『アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ』は、雨のなか、泣きながら彼の車を見送った、私の切ない初恋への“さよなら”の曲。ですから、ライナーノーツを見てから聴いていただくと、また一味違った楽しみ方をしていただけるんじゃないかしら」
【母はいつも私の名プロデューサー。次ページに続きます】