名刀を鑑賞するなら、刀を愛した戦国武将や、高名な刀匠が作刀に勤しんだ産地こそふさわしい。武将ゆかりの尾張(愛知県)、刀匠ゆかりの備前(岡山県)を旅してみたい。
福岡一文字派、最盛期の名刀
太刀 無銘一文字
【山鳥毛】
名刀の旅(3) 備前
備前おさふね刀剣の里●岡山県瀬戸内市
日本最大の刀剣の産地、備前国で傑作を拝見
平安末期から多くの刀工が、ここ瀬戸内市(岡山県)に工房を構えていた。備前国(岡山県)で作られる刀を「備前刀」という。
日本に現存する刀は、280万口といわれているが、そのうちの半分は備前刀である。国宝の刀剣111口うち、備前刀は47口。質・量ともに、備前国は日本一の刀剣の里なのである。
「この地には、刀作りに必要な条件が揃っていました。砂鉄の産地であり、燃料の炭となる松やクヌギも多い。近くを流れる吉井川の豊かな水は、運搬にも、鍛錬の際に鉄を冷やすのにも好都合でした。また陸路と水路の要衝にあった福岡の市は、山陽道随一の規模を誇っていました」(備前長船刀剣博物館学芸員・杉原賢治さん)
備前国は大和(奈良県)や京の都へも比較的近く、材料や流通経路、すべてがあったのだ。吉井川下流域からは、平安時代に活躍した友成、福岡一文字派の則宗や助真、吉岡一文字派の助光、長船派の光忠や長光など、数多くの名工が誕生した。
かつて長船派の工房があった地域にあるのが、「備前おさふね刀剣の里」だ。
ここには、刀剣専門の「備前長船刀剣博物館」や実際に刀を購入できる「ふれあい物産館」、現代の職人たちが作刀する「備前長船鍛刀場」や「備前長船刀剣工房」がある。刀匠や研師、彫金師や鞘師、塗師や柄巻師など、職人が一堂に会し、実際に作刀を行ない、しかも一般に無料で公開しているのはここだけではないか。
古式鍛錬(毎月第2日曜11時~、14時~)の公開や、ペーパーナイフ製作講座(要予約、受講料1500円)、小刀製作講座(要予約、材料費1万5000円+受講料1日2000円)など、体験型イベントが多く開催され、人気を集めている。
山鳥毛が里帰り
この地が、刀の愛好家から注目を集めているのはほかでもない。実は今年になって、上杉謙信の愛用の刀、国宝『山鳥毛』(上写真)を5億円で購入したのである。
ふるさと納税やクラウドファンディングを活用しながら、寄付だけで8億円超が集まったという。
「『山鳥毛』は無銘ですが、備前・福岡一文字派の刀工が、鎌倉時代中期に作ったとされる、刃文が特徴的な美しい太刀です。福岡一文字派の最高傑作ともいわれています」(前出・杉原さん)
備前長船刀剣博物館
全国でも珍しい刀剣専門の博物館
「備前おさふね刀剣の里」の入口の役目も果たしているのが、白壁が映える「備前長船刀剣博物館」だ。ここは、日本刀を専門展示する全国でも珍しい博物館で、備前刀を中心とした日本刀の展示のほか、様々な企画展を行なっている。また、日本刀の作刀工程や研磨工程、刀装具、備前長船の歴史などをテーマに即し学べる。同里内には、「備前長船鍛刀場」や「備前長船刀剣工房」など職人たちの工房が立ち並ぶ。鍛刀場では、古式鍛錬を毎月第2日曜に1日2回(午前11時~、午後2時~)、1時間ずつ開催し、人気を博している。
岡山県瀬戸内市長船町長船966 電話:0869・66・7767 開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)休館日:月曜(休日の場合は翌日に振り替え)祝日の翌日、12月28日~1月4日、展示替時(HP参照)料金:500円 交通:JR長船駅からタクシーで約10分。4月20日~5月6日まで臨時休館。今後の再開等詳細につきまし
梨子地刻小サ 刀拵
【名物 南泉一文字】
●徳川美術館
愛知県名古屋市東区徳川町1017 電話:052・935・6262 開館:10時~17時(入館は16時30分まで) 休館日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始 料金:1400円 交通:JR・名鉄・名古屋市営地下鉄大曽根駅下車、徒歩約10分 4月8日(水)~5月11日(月)まで全館臨時休館致します。なお、今後更に予定の変更がある場合には、ホームページ等でお知
立ち寄り処 宝善亭
参拝者に愛され続ける名古屋の郷土料理を堪能
徳川美術館の敷地の一角に立つ。『宝善亭』の店名は、尾張藩14代藩主・慶勝(1824~83)が揮毫した書から採られたもの。昭和10年に完成した和洋折衷の帝てい冠かん様式の建築「徳川美術館本館」や、四季折々の変化が楽しめる庭園を眺めながら、季節に合わせて考案された会席料理を味わいたい。
●宝善亭
愛知県名古屋市東区徳川町1017 電話:052・937・0147 営業時間:11時~21時(夜間は予約制) 定休日:月曜(祝日の場合は翌日)交通:JR・名鉄・名古屋市営地下鉄大曽根駅から徒歩約10分 席数120。
※この記事は『サライ』本誌2020年5月号より転載しました。
取材・文/山内貴範 撮影/高橋昌嗣