夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、パラダイス山元さんが執筆します。

文/パラダイス山元(ミュージシャン・エッセイスト)

パラダイスさんは、そもそも旅好きなんですか?

答えに窮しますね。本当はもう、あまり好きではないのかもしれません。どこへ行こうかとプランを練ったり、航空券やホテルの手配をネットで延々とやっていることが楽しかった。でも、歳をとってくると、そういう一切合切のことが億劫になったり、面倒くさくなってくるもの。

なんでも面倒くさくなってくるというのは、認知症の初期症状だと同級生のお医者さまから、懇切丁寧にお説教いただきました。あと、人前での下ネタ連発は、やや重めの症状かもとのこと。

でも、添乗員同行のツアーに参加するなんて、プライドが許しませんので、ここはがんばって予約を入れるしかありません。

成田空港からの出発は、まだ国内なのに、この場所へ来ただけで、もう海外への一歩を踏み出した感がハンパなくて好きです。日本の玄関。

 

↓とってもいい眺めです。ずっとここで飛行機を眺めていたいです。成田空港第1ターミナル

先日、招待制高級紳士餃子レストラン「蔓餃苑」にお越しいただいた、フレンチの大御所「Restaurant Ryuzu」の飯塚隆太シェフが、帰り際「今、ANA欧州線のビジネスクラスの機内食を担当しているので、パラダイスさん、よかったら食べに乗ってみてください」と。

メニューに、ANAでしか出会えないお食事とあります。

「食べにお越しください」ではなく、「食べに乗ってみてください」というのは、とても新しい響きに感じました。と同時に、そういうことを言える飯塚シェフが、まずはうらやましいなと。

シェフ本人不在というのがわかっていながら招かれるというのは、妙な感覚です。いないけど行く。

何人かで集ってお店に行って、フレンチのフルコースをいただいて、シャンパンやワインを数本開けたとしても、お一人様 数万円のお勘定で済むはずのものが、単純にビジネスクラスで欧州へ飛ぶということは、最低でも60万円以上します。日によっては、軽く100万円を超えてしまいます。うーむ、食べたいけれど、先立つものが……。

食べるために乗る。食べる前にとる、チケットを。

社交辞令だったにせよ、真に受けると恐ろしいお誘いに、まんまとのることを選択しました。正直なところ、どんなロングフライトでも、リクライニングを少しも倒さないで平気でいられるほどの、エコノミークラス大好き症候群の私。ここしばらくビジネスクラスには乗っていませんでした。

移動手段、旅先での食事までケチケチした「節約旅」に慣れてしまっていると、ビジネスクラスを予約する行為だけで、ずいぶんと高揚してきます。

極力キャッシュアウトなしの方向で、飯塚シェフ渾身のパワープレイにありつけるその方法は、コツコツ貯めていたマイルを特典航空券に変えること。こういう時に使わないで、いつ使うのか!

ビジネスクラスに自腹で乗れるように……、いつまで経ってもそういう心境になれない自分がここにいます。

機内食を食べることだけが目的の旅は、私のミリオンマイラー人生でも、完全に初でした。

どうせなら、食べて、タッチ()して、また同じ飛行機に乗って帰ってくるというのが、タイムロスもなくて効率がよいと考えていたのですが、あまりに直前すぎて該当する特典航空券枠がそもそも見つかりません。しょうがないので、タッチは諦めて、ならば特典航空券の利用条件を活かした「欧州ぐるぐる」で、しのぐことにしました。

※タッチとは:目的地に着くやいなや、乗ってきた飛行機、または隣のスポットで出発地に向かおうとしている飛行機に乗り継いで、スグに出発地へ戻ってくること(「パラダイス山元の飛行機の乗り方」新潮文庫、19ページより)。

往路は、成田→デュッセルドルフ(ドイツ)→フランクフルト(ドイツ)→ビルン(デンマーク)。

そもそも、デュッセルドルフにはなんの用もありません。フランクフルトにもまったく用がありません。最終目的地をデンマークにするため、経由地を検索してたら、これしか出てきませんでした。サンタクロースの寄り合いが、首都コペンハーゲンから離れたユトランド半島の北端、フレゼリクスハウンという街であるというので、それにかこつけて最終目的地をコペンハーゲンではなく、近めのビルンにしました。近めといってもクルマで300km以上も移動しないといけません。やれやれです。なんだか本格的な旅の予感がしてきました。

アペタイザーの「海老と大根のラヴィオリ見立て 蜂蜜レモンドレッシングで/鶏モモ肉のコンフィーの冷製 ピペラードを乗せて」は、メインが来る前に、何度でもおかわりしたくなりましたが、グッと抑えました。原則、おかわりはできません。

飯塚シェフが監修したビジネスクラスの洋食は、調理方法や、その後の機内での温度管理、CAさんによる狭いギャレーでの盛りつけなど、厳しい条件の中、よくぞここまで!という逸品でした。

【次ページに続きます】

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