取材・文/関屋淳子
群馬県沼田市、利根川支流の片品川沿いに開ける老神温泉は、古くからおできや腫物などの皮膚病に効き目があると言われる温泉。現在は渓谷美に抱かれるように14軒の宿があります。
温泉には次のような伝説があります。赤城山の神(ヘビ)と日光男体山の神(ムカデ)が戦った時に、弓で射られた赤城山の神がその矢を引き抜き地面に突き刺したところ温泉が湧いたとか。その湯を浴びるとたちまち傷が治り、男体山の神を追い返すことができたといいます。そのことから「追い神」が転じて「老神」になったと伝わります。
この言い伝えに因み、毎年5月のGW明けの金曜と土曜日に大蛇祭りが開催され、巳年には長さ108.22mの世界一長い祭り用へびが温泉街を練り歩きます。(※2018年は5月11日・12日に開催予定)
老神温泉の泉質はおもに単純温泉で、源泉が10か所あり、宿により利用する源泉が異なるため、肌触りなどが微妙に違うようです。もともとは片品川の川岸に湧いていたということで、これをくみ上げています。
温泉街から少し離れた場所に位置する旅館『仙郷』は、落ち着いた一軒宿の佇まい。露天風呂の湯につかると川の音がただ流れるだけ。喧騒を忘れてのんびりと湯浴みができます。2本の源泉が引かれる湯は弱アルカリ性の単純温泉。肌にやさしい湯心地です。
そして、この老神温泉では毎年3月に「老神温泉びっくりひな飾り」が催されます。温泉街にある利根観光会館のロビーや舞台・客席、大蛇みこし展示室などを会場に、なんと約5000体のひな人形やつるし雛が飾られるのです。
もともとは埼玉県鴻巣市の協力のもと、500体の雛人形展示から始まり、県内外から雛人形やお道具を供養として募集し、大規模に展開。会館の客席を雛段にして、一体一体丁寧に飾られる人形には圧倒されます。人形のお顔や姿を見ていると、持ち主の愛情や物語も見えてくるようです。
また前述した大蛇を展示する展示室では、遊び心溢れる展示も。トランプをしたり花見に興じたり、スノーボードに乗る人形たちのユニークな姿もぜひ楽しんでください。
※今年2018年の「老神温泉びっくりひな飾り」会期は、開催中~4月1日まで。各旅館や施設などでも素敵な雛人形に出会えます。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。