取材・文/関屋淳子
長野県の諏訪湖東岸に湧出する上諏訪温泉。湖沿いには諏訪湖を見晴らすように温泉旅館が並び、賑わいをみせています。1日1万5000キロリットルという豊富な湧出量を誇り、かつては地面を掘れば温泉が沸いたとの逸話が残るほどです。
湖畔には「諏訪湖間欠泉センター」があり、現在は一日に5~6回、間欠泉の噴出を楽しめます。温泉掘削中の昭和58年に噴出した間欠泉は、当時は50mほどの高さになり、見る者を圧倒しました。
現在は自噴が止まったため、コンプレッサーで噴出させています。人工的とはいえ、5mほどに吹き上がる温泉はなかなか見ごたえがあります。
温泉宿には湖を一望する露天風呂もあり、沈む夕陽で茜色に照らされる湖面や、対岸の明かりに照らされる湖面が楽しめます。
さらに諏訪湖といえば、ワカサギ釣りが有名で、冬を迎えるこれからが本番。湖上での釣りで冷えた体を温泉で温めるのもいいものです。
泉質は単純硫黄泉と単純泉。肌にやさしいアルカリ性でつるりとした肌触り。何度でも入りたくなります。
さて、ここ上諏訪の温泉地には、国の重要文化財の温泉保養施設「片倉館」があります。岡谷市で製糸業を興した片倉家の2代片倉兼太郎による、工場で働く女工らのための施設で、欧米諸国に視察旅行に出かけた兼太郎が、充実した厚生施設を目の当たりにし感銘を受けて、昭和3年(1928)に完成させました。
温泉棟と会館棟の2棟が渡り廊下でつながれ、洋風建築ながら、和の要素も取り入れた見事な産業遺産です。浴場はステンドグラスや繊細な装飾が施され、千人風呂と呼ばれる大理石の浴槽があります。深さは1.1m、浴槽の下には玉砂利が敷かれ、歩くとツボを刺激してくれます。
日帰り温泉として観光客や地元住民の憩いの場として今も現役。館内を巡るガイドツアーもありますので、興味のある方はぜひ。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。