取材・文/関屋淳子
オーストリアの首都ウィーン。ここから遠足気分で出かけられる温泉地があります。古くから温泉保養地として名を馳せた、バーデン・バイ・ウィーン(以下、バーデン)です。
バーデンはウィーンから南へ約26㎞、ウィーン中心部から路面電車で約1時間の距離にあります。電車はバーデン行きですので終点で下車すればいいという、わかりやすいアクセスです。バーデン周辺にはワイナリーもあり、車窓からはブドウ畑が広がる長閑な景色も楽しめます。
バーデンは13世紀後半には温泉があったことが知られ、19世紀にはハプスブルク家の夏の離宮が置かれて、貴族や芸術家が訪れ、温泉保養が盛んでした。
大作曲家・ベートーヴェンもバーデンに定期的に保養に訪れ、1821年~23年に暮らした家が「ベートーヴェン・ハウス」として博物館となっています。ベートーヴェンは難聴の恐怖と闘いながら、この地で交響曲第9番の大部分を作曲しました。
また、バーデンの街並みは19世紀前半に流行したビーダーマイヤー様式の建物(清楚な中にも優雅な趣がある住宅)などが多く残ります。街全体が洒落た心地よい雰囲気で、歩くだけでも楽しめます。
さて、目指す温泉は街の一角にある施設「レーマー・テルメ」です。敷地内には温泉とプール、サウナ、フィットネスセンターなどがあり、温泉とプールは3時間の利用が基本です。
入り口で料金を払うとリストバンドが渡され、現金を使わずに施設内での飲食などの清算を管理してくれます。更衣室は男女共用。清潔でロッカーも多く、広いので人目は気になりませんでしたが、個室の着替えスペースも用意されていました。
ガラス張りの天井の下、明るい室内プールは広々としたスペース。子どもたちが遊べる流れるプールや本格的な競泳プールなどに分かれています。
そしてお目当ての温泉は屋外にありました。泉温が34~36度の温泉プール。ただし取材日は気温が30度超えの大晴天。泉温はもっと熱くなっていたかもしれません。
日光浴をしながら温泉プールに浸かり、プールで泳ぐを繰り返す人々で大賑わい。もうひとつ水温の低い屋外プールがありましたが、こちらは温泉ではないようです。
温泉の泉質は硫黄泉です。男性の口を模ったオブジェから流れる源泉は、しっかりと硫黄のにおいがします。本当はこちらに入りたい!と思うのですが、それはできず(あくまでもオブジェなので)手を浸けるのがせいぜいでした。
バーデンでは約1000m地下から36度の温泉が湧き出し、源泉は15か所あるとのこと。イエローゴールドの湯はリウマチや疲労回復に効果があります。温泉プールで体をほぐし、プールで泳いでリフレッシュ、そんなヨーロッパらしい温泉文化を楽しんできました。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。