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約250種もの桜が咲く日本最北の城下町「松前」へ桜を観に行く


文・写真/鈴木拓也

江戸時代には、日本最北の藩でありながら皇室との関係を築き、京文化が花開いた松前(まつまえ)。今は、松前漬け発祥の地として知られているが、実は「日本さくら名所100選」に選ばれた、桜の一大名所でもある。

この地に咲く桜は、実に約250種、1万本あまり。その多くは、かつては城下町であったことを偲ばせる松前城を中心とした松前公園に植えられており、春になると一帯は薄紅色に染まる。4月下旬に咲く早咲きの品種もあれば、5月中旬になって咲く遅咲きの品種もあるため、1か月近くにわたり花見シーズンが続き、内外からの花見客で連日にぎわう。

品種もさまざまな桜が咲き誇る景観は、まさに圧巻。今回は、そんな松前で見られる桜の品種とともに、町の見どころをいくつかご紹介したい。

*  *  *

まずご紹介する品種は「南殿」。正式な名称は「松前早咲」で、松前町の光善寺そばに原木があるが、これは江戸中期に吉野から渡った桜だという伝説がある。松前では、本数の多さと花の美しさから最も目立つ品種である。

南殿

南殿の原木は「血脈桜」と呼ばれ、樹齢300年を超す松前最古の桜の木。宝暦年間に、この桜の精が乙女の姿となって住職の枕元に現れ、血脈(亡くなった人が成仏できるよう僧侶が与える書状)を授けたという伝承から名付けられた。東西17メートルに及ぶ枝張りに桜が満開になっているのを観ると、桜の精が出てきても不思議ではない感覚にとらわれる。

血脈桜

次にご紹介するのは「雨宿」。明治期に荒川の堤から広まったとされる品種で、別名は白妙(しろたえ)。ほぼ純白色で、大輪八重の花を5月初旬に開花させる。観ていて、気持ちが晴れ晴れとする優美な桜である。

雨宿

花びらの大部分が白で、周縁部だけがほんのり赤みをさす繊細な美しさを特徴とする桜「霞桜」は、山桜に似ていて、葉柄に毛が見えることから毛山桜とも称される。龍雲院の境内にある霞桜は「蝦夷霞桜」と命名され、松前三大名木の1つに数えられる見事なもの。

蝦夷霞桜

枝も花も枝垂れていることから、他の桜とは一風異なった趣を与え、人気の高いのが「八重紅枝垂」。北海道ではあまり見かけない樹種であり、松前でも数は少ないだけに、これほど壮観な姿を観ると感動もひとしお。

八重紅枝垂

「鬱金(うこん)」は、黄桜の別名があるように、白い花びらに黄緑が混じり、遠くからは黄色く見える桜。ウコンの根で染めた布の色を想起させるため、この名が付いている。松前では、なかなか珍しい桜で、希少性は高い。こうした数の少ない樹種を探すのも、松前の桜の楽しみ方である。

鬱金

*  *  *

さて、松前に桜を観に訪れたなら、ぜひ立ち寄りたいのが往時をしのぶ史跡の数々だ。かつてここには15を数える寺院があり、戊辰戦争でほとんどを焼失したものの、戦災を免れた寺院施設は、貴重な文化遺産として重要文化財等に指定されている。

重要文化財の法源寺山門

そして、松前町のランドマークとして見逃せないのが松前城。1854年に落成したこの城は、最後の日本式城郭であり、その天守閣は幕末動乱の戦禍も免れた。が、1949年の松前町役場の火災の飛び火により、惜しくも亡失する。今見る松前城は1961年に再建されたもので、中は松前城資料館となっており、アイヌや松前藩の歴史を語る遺品の数々が展示されている。

松前城天守閣

松前城の本丸御門は1854年から健在で重要文化財に指定

桜が開花する時期は、『松前さくらまつり』と銘打って、鎧を身にまとった人たちが練り歩く「武者行列」や夜間の「夜桜ライトアップ」など、様々なイベントが催される。ゴールデンウイークに道南観光をお考えの方は、ぜひ旅程に含めておきたいスポットである。

【松前へのアクセス】
松前まで接続する鉄道はないため、旅行者には函館駅前からのバス『快速松前号』(片道約3時間)が便利。花見シーズンには特別便が出ることがあるので、詳細については函館バスの函館駅前案内所(電話:0138-22-8111)に確認を。

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

参考図書:『日本の桜』(勝木俊雄著/学研)

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