取材・文/鈴木拓也

江戸時代に津軽藩の城下町として栄えた弘前。明治時代に入って、外国人教育者や宣教師を積極的に雇い入れたことが1つの契機となって、多くの教会・洋館が建造された。太平洋戦争末期に空襲で焼け野原となった青森市のような戦禍を被らなかったことや、市民の文化財保護意識の高さなどから、そうした建築物の一部は現在も残り、旅行者の目を楽しませてくれる。

今回は、そうした建築物のうち主要な8棟を紹介したい。

旧藤田家別邸

1873年に弘前に生まれ、日活などの社長を歴任後、日本商工会議所の初代会頭に就任するなど、実業家として大正時代を駆け抜けた藤田謙一。1921年に故郷に別邸を建築し、ほぼ当時の姿で現存する。

設計・建築を手がけたのは、青森県で数多くの洋風建築物を生んだ堀江佐吉の息子の金蔵と幸治。木造の2階建てで、八角形の塔屋があることで欧風らしさが醸し出されている。

現在、1階は「大正浪漫喫茶室」という名のカフェと藤田謙一資料室として公開され、2階は貸会議室となっている。

建物の右手には、総面積約2万平方メートル、東北第2の広さを誇る庭園がある。これは、藤田が東京から庭師を招いて造園させたもので、藤田記念庭園と呼ばれる。名園のほまれ高いので、別邸と合わせて見学したい。

旧藤田家別邸

住所:弘前市大字上白銀町8-1
電話:0172-37-5525(事務所)、0172-37-5690(大正浪漫喫茶室)
開館時間:9:00~17:00
休館日:無休
公式サイト:http://www.hirosakipark.or.jp/hujita/

旧第八師団長官舎

1918年に第八師団長の官舎として建てた、筋違などの骨組みを見せるいわゆるハーフティンバー様式の平屋建洋館で、入り口に切妻破風が設けられているのが印象的。

終戦直後は進駐軍の司令官宿舎として利用された後、市長公舎となった。2003年に国の登録有形文化財に指定され、2015年には「スターバックスコーヒー 弘前公園前店」としてオープンした。

リノベーションした際に、畳敷きの和室は椅子・テーブル席の空間へと一変しているが、大正時代の雰囲気は全体として残し、建物の外観も最小限しか手を加えられておらず、風情あるカフェとして地元の人たちに親しまれている。

旧第八師団長官舎(現「スターバックスコーヒー 弘前公園前店」)

住所:弘前市上白銀町1-1
電話:0172-39-4051
営業時間:7:00~21:00
定休日:不定休
公式サイト:http://www.starbucks.co.jp

旧弘前市立図書館

設計・施工は堀江佐吉。1906年に日露戦争の戦勝を記念して竣工し、1931年まで図書館として市民に開かれていた。八角形の双塔を有する木造3階建のルネッサンス様式を基調としつつ、和風の建築様式も採用されている。外壁は白、窓の周囲は緑というコントラストが晴天時に映え、弘前公園周縁では随一のランドマーク。県の重要文化財に指定されている。

中は部分的に現役図書館時の様子が復元されており、関連する資料も展示されている。

旧弘前市立図書館

旧弘前市立図書館の2階にある一般閲覧室

住所:弘前市大字下白銀町2-1
電話:0172-82-1642(弘前市文化財課)
開館時間:9:00~17:00
休館日:無休

旧東奥義塾外人教師館

東奥義塾とは、津軽藩の9代藩主寧親が創設した藩校「稽古館」を受け継ぎ、1873年に開校した東北最古の私学。先取の気質を持ち、当初から外国人宣教師を英語教師として招き入れた。その外国人教師用の住まいとして1900年に建てられ、修復ののち現存するのが、この英国風の二階建て木造建築物。

1993年に県の重要文化財に指定されたのち一般公開され、1階はカフェ「サロン・ド・カフェ・アンジュ」に、2階は資料室となっている。資料室には、往時の家具・調度品が置かれ、明治時代の外国人宣教師の生活をしのぶことができる。

旧東奥義塾外人教師館

旧東奥義塾外人教師館の2階内部(書斎)

住所:弘前市大字下白銀町2-1
電話:0172-37-5501(市立観光館)、0172-35-7430(サロン・ド・カフェ・アンジュ)
開館時間:9:00~18:00(サロン・ド・カフェ・アンジュは9:30~)
休館日:無休

旧第五十九銀行本店本館

堀江佐吉が設計・施工し、1904に竣工した、明治期のルネッサンス風建築様式のものとして、日本でも有数の洋館。防犯・防火を考慮して造られた質実剛健な構造ながらも、「白亜の殿堂」と呼ばれる優美さを併せ持つ。

会議室の天井に金唐革紙という壁紙を使うなど、現在でほとんど見られなくなった意匠が随所にあり、国の重要文化財に指定されている。

現在は「青森銀行記念館」として一般開放され、1階は当銀行と日本の金融史を通観できる資料室になっており、2階は応接室、会議室、大広間などが復元され、当時の様子を今に伝える。

旧第五十九銀行本店本館

金唐革紙が天井に張られた小会議室

住所:弘前市元長町26番地
電話:0172-36-6350
開館時間:9:30~16:30(弘前さくらまつり、弘前ねぷたまつり、弘前城雪燈籠まつりの期間は~18:00)
休館日:火曜日および12月29日~1月3日
入館料(大人):200円(主要な祭りの期間は無料)
公式サイト:http://aoginkinenkan59.ec-net.jp/contents/

※以上5つの建築物は、いずれも弘前市役所の近くに位置する。弘前駅前から弘前公園方面に向かうバスに乗り「市役所前公園入口」で下車すると一気に回れる。

カトリック弘前教会

弘前におけるカトリックの本格的な布教が始まったのは、1878年。函館での布教活動を一段落させた神父が、津軽海峡を渡って一民家を教会としたのが先駆けという。

その後、1910年になってドミニコ会のモンダナ神父が教会を設立。オージェ神父が設計し、横山常吉(堀江佐吉の弟)が施工した木造モルタルの平屋建で、ロマネスク風の趣がある。教会としては小規模なものだが、統一感のとれた美しさがある。
高さ8mの祭壇は、アムステルダム(オランダ)の聖トマス教会にあった1866年製作のものを、譲り受けたという。弘前に来る前は、アントワープ(ベルギー)で開かれた展覧会で最優秀賞を受賞したというだけあって、美しいステンドグラスとともに一見の価値がある。

カトリック弘前教会

カトリック弘前教会の内部

住所:弘前市百石町小路20
電話:0172−33−0175
開館時間:7:00~19:00(冬期は~18:00)
休館日:日曜日の午前
公式サイト:http://www.sendai.catholic.jp/hirosakicatholicchurch.html

日本基督教団弘前教会

外国人宣教師J・イングに感化を受け、キリスト教徒となった東奥義塾の学生らは、1875年に弘前公会を創立した。これが東北初のプロテスタント教会となり、後の1906年に竣工した教会が同じ場所にある。

これは、明治期に建てたものとしては全国的にも非常に珍しい、双塔木造のゴシック建築物で、両塔の高さは20mもある。ノートルダム聖堂を参考に設計されたという。内部の礼拝堂は意外にも簡素な造りで、畳敷きの床など和洋折衷が特徴となっている。

日本基督教団弘前教会

日本基督教団弘前教会の礼拝堂

住所:弘前市元寺町48
電話:0172‐32‐3971
開館時間:10:00~16:00
休館日:日、月、水曜日の午前中および職員不在時
公式サイト:http://hirosakichurch.sakura.ne.jp

旧制官立弘前高等学校外国人教師館

1925年に堀江佐吉門下の川元重次郎によって旧制弘前高校の外国人教師宿舎として建てられたもので、独語と英語の教師が家族とともに住んでいた。

今は弘前大学のキャンパス内にあるが、当初は付近に2棟並びで建っていた。車道拡幅工事に伴い2棟とも撤去される予定であったが、文化遺産として残すことが決まり、いったん両方とも解体して、保存状態の良い部材をもとに、移築・復元されたといういきさつがある。

2005年に国の登録有形文化財の認定を受け、2016年に成田専蔵珈琲店に業務を委託して「弘大カフェ」として生まれ変わった。
外観は、大正末期の洋風建築の特徴をよく残し、店内は、地元の著名家具店の手による椅子とテーブルが置かれたレトロモダンなカフェとして、一度は立ち寄りたい魅力を放っている。

住所:弘前市文京町1(弘前大学構内)
電話:0172-55-5797
営業時間:10:00~19:00
定休日:月曜日(祝日であれば営業)
公式サイト:http://hirodai-cafe.com/

*  *  *

以上、弘前市内の明治・大正期の洋館8棟を紹介した。弘前さくらまつりやねぷた祭りで旅行した折に、巡り歩いてみると楽しい思い出になるだろう。

取材・文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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