■パナマ運河を越え、太平洋でチョコレート祭り
『クイーン・エリザベス』2014年世界一周ハイライトの一つは、パナマ運河とスエズ運河という世界2大運河を両方通過すること。2つの運河のうち先に完成したのはスエズ運河で、フランスの外交官フェルデナンド・レセップスにより開削され、エジプトのスエズ地峡をほぼ水平に横切る水平性運河として1869年に開通しました。
運河建設の英雄となったフェルデナンド・レセップスは、1880年から1889年にかけて中央アメリカ南東部のパナマ地峡において、大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河の開削を水平性で試みますが、険しい地形、資金繰り、マラリアの蔓延などにより、挫折してしまいます。
その後、アメリカが工事を再開し、1914年に開通させたパナマ運河は、中央部の海抜が高いため、閘門(ロック)を利用して、水を注水または排水しながら進行方向の水位と合わせて進んでゆく閘門式運河です。
1月27日、いよいよ『クイーン・エリザベス』もパナマ運河を越える日がやってきました。運河の全長は約80km。通常船舶は8~10時間かけて通峡します。
ところで、この運河を通過できる最大の船のサイズをパナマックスサイズと言い、船舶の全長294.13m(船のタイプによる)、全幅32.31m、吃水12m以下の船に制限されていますが、今回乗船中の『クイーン・エリザベス』は全長294m、全幅32.25m、吃水8mなので、まさにすれすれの通過となるわけです。
当日の船内新聞にはパナマ運河通峡のスケジュールと共に「高温多湿地帯での長時間の通峡となりますので、水気を十分に取り、虫よけ、帽子、サンスクリーンなどで万全の対策を」という、運河見物の注意書きも記されていました。
船上では、普段は立ち入り禁止のデッキ5(5階)とデッキ6(6階)の前方を朝6時から解放しました。そして、眩しい朝日の中、最初の「ガツンロック」の水門が開き『クイーン・エリザベス』はゆっくりと水門と水門の間のチャンバー(水槽)に入っていきました。この時、船が壁にぶつかることなく、上手く中央に入るよう電気機関車がワイヤーを使い両側からけん引補佐しますが、チャンバーの幅は33.5mなので片側わずか60cm程の隙間しかありません。
「ガツンロック」では3段のチャンバーを利用して26m昇ります。後ろの水門が閉まると、水が注水され、船は水の階段を昇るように徐々に上昇していきました。今回は隣の水路に日本郵船のコンテナ船「NYK REMUS」が通航中で、他の船の高さと比べることにより一段と、水位の高低差が体感できました。
さすがに、世界一有名な豪華客船が通るとあって、パナマ運河で働く人々も興味津々の様子です。見物人も多く、開門直前の水門から『クイーン・エリザベス』の写真を撮影している人までいました。
プールサイドではパナマ運河通峡中を鼓舞するダンスパーティーも開かれ賑やかなムード。パナマの民芸品を売る土産物屋も出店しました。
2つ目の閘門「ペドロミゲルロック」では1段で8m下ります。この付近では、現在行なわれているパナマ運河拡張工事の現場を船上から沢山見ることができました。パナマ運河は、新閘門建設を含む拡張計画が進行しており、完成後は全長366m、全幅49m、吃水15mまでの船舶の航行が可能になります。
拡張計画は、パナマ運河開通から100周年を記念した2014年の完成予定でしたが、大幅な工事の遅れから2015年完成へ延期となりました。しかし、それも危ぶまれているようで、船上で行われた地元講師によるパナマ運河解説と質疑応答では「新閘門はいつ完成ですか?」という質問に「いつか」という答えが返ってきたので、乗客たちから笑い声が上がりました。
そして、最後のミラフローレスロックを通過し『クイーン・エリザベス』は無事太平洋へと抜けだしました。
パナマ運河を越えた『クイーン・エリザベス』が次に訪れたのはコスタリカのプンタレナスでした。太平洋岸に位置するニコヤ湾に面した保養地で、首都サンホセから車で約2時間の場所にあり、週末には沢山の観光客で賑わう港町です。
プンタレナスからバスに乗りコスタリカ有数の古都エスパルザに向かうと、町の中央公園で、美しい民族衣装の子供達が、目をキラキラ輝かせながら、小さな手からバナナをプレゼントしてくれました。やがて、子供達の民俗舞踊が始まりました。スカートの裾を広げくるくると回る熱演が続きます。最後は乗客たちも踊りに加わり、子供たちと手をつなぎ大きな輪が広がって行きました。
太平洋を走る船上では、オヤスミ前のひとときに甘い夢を見るお祭りも開かれました。それは夜10時から開催された「チョコレートと氷の彫刻イベント」。ビュッフェレストランの一画を氷の彫刻やチョコレート細工で飾りたて、ケーキも、ムースも、タルトも、クッキーもチョコレート尽くしという夢のようなイベントです。今夜のために造られたチョコレート菓子はなんと22種類。「写真を撮るだけ」と心に決めていた私も、甘い香りに誘われて、珍しいホワイトチョコのホットドリンクを飲んでしまいました。すると体がほかほか温まり、よい夢を見られそうな気分になりました。
2月2日は、全米ナンバー1のアメリカンフットボールチームを決める「スーパーボウル」の開催日。そこでシアトル・シーホークス対デンバー・ブロンコスの試合を船上劇場「ロイヤルコートシアター」の大型スクリーンで、実況中継しました。しかも、入口にはホットドッグやプレッツェルを無料で提供する屋台を造り、チアリーダーに扮装したダンサーがお出迎え。場内では、ポップコーン屋が練り歩き、本物のスタジアムで観戦しているような雰囲気を醸し出しました。
アメリカンムードに浸った『クイーン・エリザベス』は、2月5日、ライトアップした「ゴールデンゲートブリッジ」をくぐりぬけ、夜明け前の米国サンフランシスコに到着しました。やがて、7時を過ぎると、サンフランシスコのもう一つの有名な橋ベイブリッジの向こうから鮮やかな日が昇り、カリフォルニア州を代表する港町は美しい朝を迎えました。
坂の町サンフランシスコは、これまで度々、地震や大火に見舞われた歴史があり、昔から消防士や消防車は、市民から重要視される存在だったそうです。そこで、サンフランシスコでは「ビンテージ消防車体験」というユニークなツアーに参加しました。港にやってきたのは1950年代に活躍していたマック・トラック社製の真っ赤な消防自動車。消防服を着て乗り込むと「ゴールデンゲートブリッジ」を目指して出発しました。
このツアーの面白い点は、周りの車や道行く人が、こちらに向かって手を振ってくれること。さらに、現役の消防車とすれ違った時には、向こうから鐘を鳴らしてくれました。そして、屋根のない旧式消防車で「ゴールデンゲートブリッジ」を突っ走るのは気分爽快。ちょっとした遊園地の乗り物よりスリル満点です。
アメリカの西海岸を代表する町サンフランシスコを後にした『クイーン・エリザベス』が次に向かうのは、太平洋の楽園ハワイです。
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