
「いつか、自分の経験をまとめた本を執筆して出版してみたい」――人生でさまざまな経験をしてきたサライ世代の人たちが一度は思うことかもしれません。しかし、実際に自著を出版できるのは、ほんの一握りの人に過ぎません。では、どんな人が作家になれるのでしょうか?
『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房)などのベストセラーで知られる本田 健さんと、94歳の今でも作家として編集者として第一線で活躍する櫻井秀勲さんによる共著『作家という生き方』(きずな出版)には、作家という夢を叶えるためにすべきこと、作家に必要な資質、読者の心をつかむ技術などについてまとめられています。
今回は、『作家という生き方』(きずな出版)の中から、作家に必要なビジネス感覚、作家になるには年齢は関係あるかについて取り上げます。
作家が磨くべき「ビジネス感」とは
執筆/本田 健
ところで、作家というと創作や表現の側面が注目されがちですが、成功し続けるためには「ビジネス感覚」も不可欠だ、と私は考えています。
どれほど優れた作品を書いても、それが読者に届かなければ、作家になれません。本を売るという意味では、マーケティングの才能も必要です。
作家としてのビジネス感覚は、「読者目線を持つこと」から始まります。自分が書きたいものを書いてもいいのですが、それだけだと売れません。読者が求めるテーマや興味をリサーチし、自分のスタイルと市場のニーズをマッチさせることです。
ビジネス感覚という点では、自分自身が一つの「ブランド」であることを意識することです。インフルエンサーとして、SNSやブログを活用して、自分の考えや活動を発信することで、影響力を持たなければいけません。ブランドができないと、作品も売れないし、その後の展開もないでしょう。
「数字に強くなること」も大事です。本の部数、どういう層の読者に支持されているのかといった売上データも頭に入れておくことです。そういうことを認識した上で、編集者や出版社と連携して効果的なプロモーションを展開することが可能です。
映画や音楽など他業界で流行っているものから、インスピレーションを得ることもできます。たとえば、映画業界でのプロモーション手法や音楽業界でのファン獲得法は、自分にもすぐに使えるでしょう。他の業界で起きていることを参考にして、斬新なアイデアを自分の作品に取り入れることができます。
作家にとってのビジネス感覚とは、「自分の価値を正しく評価し、それを最大化するスキル」です。自分の作品の可能性を信じ、どのように広めるかを戦略的に考えることが求められます。
書斎で、文章を書いていたら、なんとかなった時代は、終わってしまったのです。ビジネス感覚は、創作活動と対立するものではありません。むしろ、それは作品を読者に届けるための手段であり、作家としての夢を実現するための強力な武器です。
ところで、夢を実現するということでいうと、作家になるのに、年齢制限というのはあるのでしょうか?
体験を通して新鮮な情報に仕立てる
執筆/櫻井秀勲
作家になるのに年齢制限はありません。94歳の私だって続けています(笑)。若くしてデビューする人もいれば、60
歳、70歳を超えてから、第一作を世に出す人もいます。
森敦は最高齢の62歳で芥川賞をとった作家ですが、その作品『月山』は芥川賞史上、最高の名作といわれています。名作というと、書斎で真剣に書いている姿を思い起こしますが、その一部は山手線の中で書いた、といわれています。

いまは原稿用紙を広げなくても、スマホ、パソコンで原稿が書ける時代です。
集めた情報を、一巻の本にしてみたらどうでしょう。人と話しているだけで新しい生き方、情報は入ってくるものです。つまり、誰でも珍しい話、新しい体験は入ってくるし、積まれていくものです。可愛い猫や犬の話でも、一冊の本になるのです。
私は若い頃から、新しい情報を集めるのがうまかったようです。それというのも、作家の先生方にお会いするとき、次の5つの「土産」を置いてくる習慣を持っていたからです。
(1)「困ったことがあれば、何でも相談してください。
私にできるようであれば、すぐやりますから」
(2)「時間が空いたら、話し相手に呼んでください。面白い話を持っていきます」
(3)「他の人に頼めないということがあれば、相談してださい。解決法を探しますから」
(4)「深夜、早朝に相談があるというときは、深夜だけならいつでも呼んでください」
(5)「私から金を借りたいという話だけは、ご勘弁ください」
――これだけで、逆に珍しい話、面白い話が入ってきます。話題を広く集めたいときは、ユーモアを加えることが大事です。(5)の借金の話を加えておくと、頼みやすくなることがあるようでした。
このように、他人の情報に頼るより、自分の足で体験する話のほうが、面白くて新鮮です。誰も見ていない新鮮な生活をしていこうと、私は94歳になっても思っています。
出版社が欲しがるネタは、誰もが自分の中に持っているのです。そんな作家なら、この私が追いかけますよ。
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作家という生き方
著/本田健 櫻井秀勲
きずな出版 1,980円(税込)
本田 健(ほんだ・けん)
神戸生まれ。2002年、作家としてデビュー。代表作『ユダヤ人大富豪の教え』『20代にしておきたい17のこと』など、累計発行部数は800万部を突破している。2019年、初の英語での書き下ろしの著作『happy money』を米国、英国、豪州で同時刊行。これまでに32言語50か国以上の国で発売されている。現在は世界を舞台に、英語で講演、執筆活動を行っている。
櫻井秀勲(さくらい・ひでのり)
1931年、東京出身。東京外国語大学を卒業後、光文社に入社、大衆小説誌『面白倶楽部』に配属。当時、芥川賞を受賞したばかりの松本清張、五味康祐に原稿を依頼。二人にとっての初めての担当編集者となる。以後、遠藤周作、川端康成、三島由紀夫など、文学史に名を残す作家と親交を持った。31歳で女性週刊誌『女性自身』の編集長に抜擢され、毎週100万部発行の人気週刊誌に育て上げた。55歳での独立を機に、作家デビュー。82歳できずな出版を起業。94歳の現在、著作は220冊を超える。
