写真・文/鈴木拓也

明治元年に開港した、古くからの港町神戸。明治~昭和初期にかけ、港を一望できる高台の北野町には、外国人(異人)たちが住むコロニアル様式の洋館(異人館)が次々と建てられた。一時は、200棟を超えた異人館街だが、戦災や高度経済成長期のマンション需要などから減少の一途をたどった。

しかし、1977年に放送されたNHKの朝ドラ『風見鶏』で、舞台となった異人館街の存在は広く知れわたり、残っていた30棟余りの異人館は、保存・修復活動が進められた。今では、神戸有数の観光地となっている。

今回は、北野異人館街の中でも一番人気の『風見鶏の館』を紹介したい。

*  *  *

『旧トーマス住宅』として国の重要文化財の指定を受けている『風見鶏の館』は、ドイツからやってきた貿易商ゴットフリート・トーマス家の邸宅であった。異人館街の中でもレンガ外壁の建物は他に類を見ず、色の鮮やかさと尖塔の風見鶏は、異人館街のランドマーク的な存在でもある。

レンガ外壁が印象的な『風見鶏の館』

内部は、ドイツの伝統的な建築様式を踏襲しながら、建設当時に欧州で流行したアールヌーヴォーの要素を取り入れた雰囲気がある。では、幾つかの部屋を見てみよう。

まずは食堂。中世の城郭をイメージさせる天井の小梁のもと、豪奢な飾り戸棚や暖炉があり、優れた意匠が随所に認められる。トーマス一家が食事を楽しんだ様子が偲ばれる空間だ。

1階の部屋の中でも見どころの多い場所なので、ゆっくり時間をかけて見学しよう。

食堂

他の部屋と比べひときわ広いのが、愛嬢のエルゼのための子供部屋。当時はタンスといった家具類や人形コーナーもあったという。

エルゼの部屋

2階のベランダは、大きなガラス窓を張りめぐらせた採光を重視した空間で、トーマス家が住んでいた頃は観葉植物が育てられていたという。窓から見える風景は、神戸港を一望できる絶景で、窓辺は観光客に人気のスポットとなっている。

ベランダ

トーマス愛用の書斎は、五面のベイウィンドウ(張り出し窓)の採光を重視したつくり。天井はこうもり傘を広げた遊び心に富んだデザインとなっており、家のあるじの性格を垣間見ることができる。

トーマスの書斎

建物の通称の由来となった、トーマス邸の塔上にある風見鶏の実寸サイズの複製。風見鶏には、風向きを知るための役割もあったが、魔除けの意味も含まれていたという。

塔上の風見鶏の複製

 

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さて、せっかく北野異人館街を訪れたなら、他の異人館もぜひ巡ってみたい。『風見鶏の館』近辺にあるおすすめ異人館をご紹介しよう。

『萌黄の館』

『小林家住宅』『旧シャープ邸』とも称される『萌黄の館』(重文)は、大きな楠の木に囲まれ、外壁の色ともあいまって涼しい感じを抱かせる2階建て邸宅。アラベスク文様の階段など、贅沢な意匠がみどころだ。

『パラスティン邸』

『パラスティン邸』は、ロシアの貿易商フィヨルド・ミハイロヴィッチ・パラスティンの邸宅で、現在はカフェ兼結婚式場として使われている。

『うろこの家』

建物の外壁に貼られた約3000枚のスレート(粘板岩)が魚のうろこに似ていることから『うろこの家』の名が付いた『旧ハリヤー邸』。内部にはマイセンなど豪華な西洋食器・工芸品が陳列され、ため息が出るほど。併設の『うろこ美術館』では、マチスやユトリロら著名画家の絵画が展示されている。

『香りの家 オランダ館』

もとはオランダ総領事邸で、のちにロシア人のヴォルヒンの住まいとなった『香りの家 オランダ館』。庭には、チューリップをはじめオランダらしさを感じさせる花々が咲き、内部は、1世紀以上も前の優雅なインテリアや絵画が陳列されている。

*  *  *

以上、神戸・北野異人館街で一番人気の洋館“風見鶏の館”こと『旧トーマス住宅』の見どころと、周辺にあるおすすめ異人館をご紹介した。

異人館邸内の見どころはこれらにとどまらず、時間を忘れるようなひとときを満喫できる。あとはぜひご自身の目で、その素晴らしさを確かめていただければと思う。

【風見鶏の館】
■住所:神戸市中央区北野町3-13-3
■開館時間:9:00~18:00(入館は17:45まで)
■休館日:2・6月の第1火曜日(祝日の場合、翌日休)
■入館料:大人は500円(団体割引あり)、高校生以下・65歳以上の神戸市民・障がい者は無料。2館券(風見鶏の館&萌黄の館)は650円。シティーループ1日乗車券持参で450円。
■電話:078-242-3223
■ファクス:078-242-3253
■公式サイト:http://www.kobe-kazamidori.com/kazamidori/
■アクセス:三宮駅から北へ徒歩15分。シティーループは、「北野異人館」下車徒歩5分。新幹線新神戸駅から西へ徒歩15分。

取材協力/株式会社日比谷花壇 指定管理者事業推進部神戸異人館グループ

写真・文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

 

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