文・写真/鈴木拓也
「鎌倉で一番大きな山門と本堂のあるお寺は?」と訊かれて、正しく答えられる人はどれくらいいるだろうか。鎌倉通を自認する人でも、「円覚寺か建長寺…?」という回答が多いかもしれない。
鎌倉駅から、バスで逗子方面に向かって「光明寺バス停」で下車してちょっと歩けば、目の前に答えが見つかる。
今回は、鎌倉でも最大級の山門と本堂を持った名刹・光明寺の見どころを紹介する。
光明寺の創立は1243年。宗祖の法然上人、二祖の聖光上人に続いて、浄土宗三祖にあたる然阿(ねんな)良忠上人が、時の執権北条経時の帰依をうけて開かれた。江戸時代においては、関東総本山として、関東十八檀林の筆頭となり、念仏信仰と仏教研鑽の根本道場であったという。
山門は、下が和風、上が中国風の二層建築の重厚な造りで、各地で寺社巡りをしてきた人さえも感嘆させるには十分な大きさである。中央に「天照山」の扁額があるが、後花園天皇の直筆と伝えられている。
のしかかるような山門をくぐると、広々とした境内に一変。真正面には、鎌倉随一の近世折衷様の本堂(重要文化財)がある。1698年に再建されたのち、幾度かの大修復を経て現在に至るが、こちらも大きい。
本堂の左手には、然阿上人以下歴代の上人の位牌・尊像を祀る開山堂があり、右手には繁栄稲荷大明神を祀る社があるが、ひとまず本堂に入ってみよう。
「大殿」と呼ぶだけあって中も広々としており、諸尊像が横いっぱいに祀られている。中央には、本尊の阿弥陀三尊像(県指定重要文化財)。中尊は上品下生印をむすぶ座像で、両脇に観音・勢至両菩薩立像を従えた来迎形式となっている。たぐいまれな作風から、鎌倉前期に京都の正当仏師が作り、鎌倉へと持ち込まれた可能性が高いとされる。
本尊の右には、関東七観音のひとつ、如意輪観音半跏像(市指定重要文化財)が安置されている。詳細は明らかではないものの、鎌倉後期の作とされ、密教的な尊像から、他宗寺院からの客仏と考えられている
ほかに室町時代作の法然上人坐像や江戸時代作の弁才天坐像など、諸尊が安置されている。
本堂に近接して左手に記主庭園とよぶ浄土宗様式の庭園が、右手には三尊五祖之石庭がある。筆者が訪れた時はまばらであったが、7月のシーズンを迎えると、記主庭園の池の紅蓮がいっせいに花を咲かせる。池の向こうに見えるのは、法然上人八百年大御忌記念事業で建立された大聖閣である。
三尊五祖之石庭は、諸尊と仏の教えを伝えた祖師たちを石になぞらえて配し、地面には小石を敷き詰め波紋を描いた石庭である。5月下旬は、石庭の輪郭をかたどるサツキが花を咲かせ、訪れる者を楽しませる。
手入れが行き届いた石庭は、炎暑を忘れて見入ってしまう不思議な魅力がある。こうして見てゆくと、光明寺の見どころは山門や本堂の威容ばかりでなく、もっと繊細な部分にあるのかもしれない。鎌倉の寺社巡りに来たのなら、ぜひとも押さえておきたい名刹である。
【光明寺】
住所:鎌倉市材木座6-17-19
電話:0467-22-0603
公式サイト:http://komyoji-kamakura.or.jp/
拝観時間:6:00~17:00(10月15日~3月31日は7:00~16:00)
交通:JR横須賀線鎌倉駅そばの7番バス乗り場より「小坪経由逗子駅行き」乗車、「光明寺前」バス停下車徒歩約1分
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。