文・写真/鈴木拓也

仁和寺の草創は886年(仁和2年)、光孝天皇が大内山の麓に寺院建立を発願したことに始まる。翌年、光孝天皇は崩御したため、宇多天皇が事業を引き継いで造営し、元号から仁和寺と名付けた。後に、宇多天皇は出家して法皇となり、仁和寺境内の僧坊(御室)に移り住んだ。地名の御室は、これに由来する。

宇多法皇以後も、明治の世に入るまでの長きにわたり、寺の住持はもっぱら皇子皇孫が務めたが(このような寺院を門跡寺院という)、この史実が境内の雰囲気や優美なたたずまいに影響しているのかもしれない。

また、境内には「御室桜」といって遅咲きで背丈の低い桜が群生し、例年多くの花見客を引き寄せるが、みどころはなにも桜にとどまらない。千年を超える悠久の歴史が育んだ数々の寺宝もまた、古くから人々の心をとらえてきた。そうした寺宝の幾つかを紹介したい。

*  *  *

二王門(重要文化財)は、江戸時代に建立された、左右に金剛力士像を配する壮大な山門で、京都三大門のひとつ。信仰の徒のみならず、古今の文士もこの山門に魅了された。

例えば文豪井上靖は、京都で一番好きな場所が仁和寺の山門であると、随筆『仁和寺の楼門』に記し、与謝野晶子は「春雨や 青き芽生のうつくしき 楓の中の仁和寺の門」と讃えている。

二王門

仁和寺の主要堂宇は、応仁の乱の兵火で焼失したが、江戸時代に入ってから復興された。金堂(重要文化財)もそのひとつで、京都御所の紫宸殿を移築したもの。仁和寺の門跡寺院らしさを、一層醸し出している。

仁和寺 金堂

寛永年間に建立された仁和寺の五重塔(重要文化財)は、高さ約36メートル。荘厳さと華麗さを併せ持つ、近世五重塔の代表作とされる。上塔と下塔の幅に、あまり違いがないのが特徴的。

仁和寺 五重塔

境内の木立に囲まれるようにひっそりと佇む2棟の茶室「遼廊亭(りょうかくてい)」「飛濤亭(ひとうてい)」(いずれも重要文化財)は、ある意味この仁和寺の白眉と言える建築物かもしれない。

遼廊亭は、寺の門前で暮らしていた尾形光琳の自邸の一部を、天保年間に移築したものと伝わる。本来は、壁土と混ぜて塗りこめる補強材の「すさ」が、あえて見えるように施工された内壁が面白い。

仁和寺「遼廊亭」

遼廊亭の内部

一方の飛濤亭も、江戸後期の築造で、仁和寺にたびたび通った光格天皇の「遺愛の席」である。天井は、杉へぎ板網代組み、蒲天井、化粧屋根裏と、三種の様式を組み合わせており、感興をそそられる。

飛濤亭の内部

そして888年に建立された金堂の本尊として祀られていたのが、檜の一木造りで彫られた阿弥陀三尊像(現在は仁和寺の霊宝館に安置)。中央に座す阿弥陀如来坐像と左右脇侍像ともども、国宝に指定されている。

阿弥陀如来坐像および両脇侍立像(春季ならびに秋季公開の霊宝館に安置)

二王門の節でも触れたが、仁和寺は、古今の文人との縁が深く、数々の文学作品の中に当寺の名が刻まれている。

吉田兼好の『徒然草』が最もよく知られた例だが、ノーベル文学賞の授賞対象作となった川端康成の『古都』や林芙美子の『御室の桜樹』など、仁和寺が舞台のひとつとなった小説もあれば、「松の実や楓の花や仁和寺の夏なほ若し山ほととぎす」と詠んだ若山牧水のように、仁和寺への愛着を詠んだ歌も多い。

この寺には、詩情をかきたてるような風情が確かにある。それを感じるためには、実際に訪れてみるしかない。

【仁和寺】
■住所:京都市右京区御室大内33
■拝観時間:御殿は、3~11月は9:00~17:00(受付は16:30)、12~2月は9:00~16:30(受付は16:00)。桜開花期間は、8:00~17:00。霊宝館は、4月1日~5月第4日曜日までと10月1日~11月23日までの期間限定で9:00~16:30(受付終了)。
■拝観料(茶室を除き団体割引あり):御殿は、高校生以上500円、小・中学生300円。霊宝館(期間限定)は、大人500円、中・高校生300円、小学生無料。桜開花期の伽藍特別入山料は、高校生以上500円、小・中学生200円。茶室(遼廊亭・飛濤亭)は、一律1000円(5名以上の7日前までに要予約で、別途御殿拝観料必要)
■電話:075-461-1155
■ファクス:075-464-4070
■公式サイト:http://www.ninnaji.or.jp/
■アクセス(バス):JR京都駅からはJRバス高雄・京北線または市バス26番、三条京阪駅からは市バス10番・59番、阪急大宮駅からは市バス26番、阪急西院駅からは市バス26番。いずれも御室仁和寺バス停下車すぐ。
■アクセス(電車):JR嵯峨野線京都駅乗車、円町駅で下車し市バス26番に乗り換え、御室仁和寺バス停下車すぐ。花園駅で下車する場合、徒歩で約15分あるいはタクシーで約5分。嵐電(京福電鉄北野線)では、御室仁和寺駅下車、徒歩約3分。

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

※仁和寺蔵『阿弥陀如来坐像および両脇侍立像』(国宝)は、2018年1月16日(火)~3月11日(日)に東京国立博物館 平成館(上野公園)で開催される特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-」に出陳されます。

 

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