取材・文/小林希

瀬戸内海には、有人島のほか無人島がいくつもありますが、その中に、野生の鹿が暮らしている周囲4キロの小さな無人島「宇治島」があります。香川県と岡山県の海域近くでもあり、多方面から行くことができる位置に浮かんでいます。

ただ、そこは無人島。桟橋もなければ、フェリーの定期便なんてありません。つまり、自力で行くには船をチャーターしなくてはなりません。そう聞くと、ちょっと億劫に感じるかもしれませんが、実はとっても冒険的で楽しい旅になります。何と言っても、普段しないことをするのが島旅の楽しさですから!

私がこの島を訪ねて行くときは、香川県の詫間というところから『瀬戸内海ボートクルージングFUJIWARA』(http://fujiwara.hp-ez.com/)さんにお願いすることが多いです。船長の藤原さんの気さくな人柄と良心的な値段で、さまざまな業界・業種の方が彼の船に乗るそうです。

宇治島の浜辺と鹿と美しい海

小さな子供たちのいる友人家族を誘って、詫間港から小型船に乗って出航します。瀬戸内海らしい穏やかなべた凪の海を走り、幾重に浮かぶ島々の陰影を楽しむこと1時間、船はエンジン速度を急速に落とし、前方に見える浜辺へと向かいます。

エメラルドグリーンに煌めく美しい海の色に、小さな子供たちも「綺麗!」と叫びます。6、7メートル下の海底までも透き通って見えるほどの抜群の透明度なのです。

船は、高らかな汽笛をならして前進。すると、島の中、前方からなにやらこちらに向かってぴょんぴょん走ってくる生き物が何頭もいます。

「汽笛をならしたからね、野生の鹿が、ご飯をもらえると思ってやってくるんだよ」と、浅瀬に錨をおろしながら藤原さんが教えてくれました。

浅瀬に船を停泊させて、宇治島に上陸

船の舳先から一人ずつ降りて、無人島に上陸します。もちろん、私たちの他には誰もいません。島は貸し切り状態です。のんびり、ゆっくりと過ごせますが、その暇もなく、鹿が次から次へとやってきては、何かもらえないかとおねだり顔でみてきます。

藤原さんが用意してくれていた食パンを子供たちが食べさせ、大人は撮影大会。瀬戸内海で水浴びをしている鹿の写真、なんて絵になるのでしょう。

何かもらえないかと人の傍までやってくる鹿たち

かつて宇治島は有人島でした。小中学校まであったといいます。ここで人の暮らしが営まれていたのです。それが急激な過疎化によって、1967年には完全に無人島となりました。

いま、瀬戸内海の島々も、多くの島が過疎化、高齢化で「無人島になってしまう」ことを憂いているのが現状です。何も無い島では、今暮らしている高齢者たちが余生を過ごしているだけというように思われています。でも、何もない島にこそ、きらっと煌めくような魅力があります。

無人となった後でも、宇治島のように鹿たちが島の守り人のような役目を担い、きらっと煌めく何かを求める旅人たちが、後を絶たない島もあるのです。

取材・文/小林希
旅作家・フォトグラファー。1982年生まれ。出版社を退社して、その日の夜から旅に出る。1年後帰国して『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家デビュー。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。インスタグラム:nozokoneko

 

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