文豪たちが愛した宮島の老舗旅館『岩惣』ともみじ谷の四季


取材・文/末原美裕

「和が願 やう也く足りて まうで来し いつく島山に 驚啼くも」

宮島へたどり着いた喜びを、歌人・斎藤茂吉は上記のように残しています。

茂吉は宮島にいる間、「岩惣」というお宿に滞在していました。こちらのお宿は、皇族をはじめ、夏目漱石、森鴎外、ヘレン・ケラーら著名人も多く宿泊した160余年もの歴史を持つ老舗です。

今回は、名だたる文豪から世界のセリブリティに今もなお愛されている宮島のお宿「岩惣」さんをご紹介します。

*  *  *

「岩惣」の起こりは嘉永年間までさかのぼります。初代岩国屋惣兵衛はふと「自分は土着の者で楓谷の麓に暮らしながら、このような旧跡地の名所を平素山野のように荒れたままにしておくのはいかにも残念なことだ」と思い立ち、「岩惣」を始めることにしたそうです。

それと同時にもみじ谷の地をならし、苗木を植え、さらには橋をかけ、天然の地に少し手を加えさせてもらうことで、美しいもみじ谷が整えられていきました。

初代岩国屋惣兵衛氏が着目したように「岩惣」の魅力は何と言っても、その立地の良さです。

昔、嚴島神社への参拝といえば、大鳥居沖の船上から嚴島神社の社殿と弥山の霊峰を拝むのが主だったそうですが、「岩惣」の建つもみじ谷は、嚴島神社と御神体である弥山のちょうど間に位置し、まるで神社・聖地の延長線上にいるような清々しさと一体感を感じるからかもしれません。

また、もみじ谷の四季はそれはそれ美しく、春は青々と萌えるような青紅葉から活力を感じ、夏は渓流の涼に癒され、秋は息を飲むほど美しい紅葉が眼前に広がり、冬は静寂とともに心もしんと落ち着くのがわかります。

生命力が溢れるような豊かな緑を誇る、春夏の紅葉谷。

彩も豊かにロマンティックな、秋の紅葉谷。

年に1、2回雪が降り積もることがあります。

「行く春や 経納めにと 嚴島」(夏目漱石)
「聞きもせず 語りもせずの 紅葉かな」(戸川幸夫)
「宮しま乃 谷間の小家 つらつらて 昼も人な具 堂々雪能ふる」(吉川英治)

それぞれの季節に、「岩惣」に宿泊した文豪たちが言葉を残しています。ゆったりとその空間、時を過ごすことで出て来る思いがあるのでしょう。

“神の島”「宮島」のご神気をたっぷりいただきつつ、四季を愛でることができる、そんな贅沢をさせてくれる「岩惣」だからこそ、著名人の宿泊の足は途絶えないのでしょうね。

もみじ谷に溶け込んだかのような離れのお部屋。

国立公園の森林に面した宮島では希少な温泉。小川のせせらぎが心地いい。

聖地は数多くあれど、その中にどっぷりと身を置いて泊まることのできる場所はなかなかありません。美しい瀬戸内海に浮かぶ“神の島”、「宮島」。一日身を委ねてみることで、今まで知らなかった聖地の新たな顔を見ることができます。

【岩惣】
住所:広島県廿日市市宮島町もみじ谷
電話:0829-44-2233
http://www.iwaso.com/

取材・文/末原美裕

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