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「苔」が美しい京都の寺4選

取材・文/末原美裕

「苔むす」という言葉もあるように、長い歳月をかけて京都に息付いている苔は、この地で大切にはぐくまれてきた人々の歴史や伝統、自然、その奥深さをつぶさに感じさせてくれるような存在です。湿潤な気候から、京都は苔の宝庫とも言われていますが、この美しさは古人から受け継がれてきた緑を慈しみ続けているからこそ眺められるものなのだと思います。

見事な苔庭は数多くありますが、この秋、特に心に感動を届けてくれる、京都の四寺を厳選してご紹介します。

【その一、“永遠のモダン”、苔が彩る東福寺の市松模様】

市松模様はそもそも“田園”を表しているそうです。洒脱なのに、どこか懐かしく感じさせるのはそのせいかもしれませんね。

「苔」というと、侘び寂びだったり、しみじみとした趣きだったりを連想しがちですが、東福寺にある本坊庭園は洗練された小粋さでそのイメージを見事に覆します。

作庭当初、本坊庭園の北庭は全体の三割ほどが白い砂地だったそうですが、ウマスギゴケの生育に適した環境だったことも手伝って、今では緑苔と切石が織りなす美しい市松模様が広がっています。作庭を担当した昭和の巨匠・重森三玲氏も時の移ろいとともに変わりゆく庭を「それもよし」と評していたそうです。豊かな自然と共生してきた京都らしいエピソードですね。

時をかけて磨かれ続けてゆく市松模様の苔庭。高い芸術性とともに自然への敬愛を示す京都の真髄が心に伝わってきます。

東福寺 本坊庭園の南庭。苔山で京都五山を表現しています。

 

【その二、住職二代で甦らせた常寂光寺の苔庭】

常寂光寺の仁王門をくぐると、ツヤゴケ、ヒノキゴケが美しく彩る緑の壁が広がり、思わず息をのみます。

嵯峨小倉山にある常寂光寺は、古くから歌枕の名勝として名高く、藤原定家や西行ゆかりの地であったと言われています。しかし、戦争中はその影響を受け、荒廃していた時期もあったそうです。1970年代に先代住職と当代の住職が手入れを施し、やがて歌人がこぞって歌を詠んだ美しい緑の輝きが戻ってきました。

「月日をかけて苔は少しずつ成長します。木や庭石に着生する苔を観賞しながら、京都に流れる時を感じてみてください」とご住職。

竹箒で掃き清められながら、今日も豊かに苔は輝いています。風流を解する歌人が愛したこの地は時を超えて、今もなお私たちに静かな情趣を届けてくれます。

守り続けてきた方々に尊敬の念がわき、1000年近く変わらない景色を今も見られることに心が震えます。

小さな滝も苔と共生しています。

 

【その三、足元に広がる苔の絨毯から瓜生山まで一体に・圓光寺】

柱の向こうには神秘的な緑の空間が広がります。

徳川家康が洛陽学校として開いた、洛北の穏やかな地にある圓光寺をご存知ですか? 江戸時代は幕府直轄の寺であり、当時から苔庭の美しさは評判でしたが、長らく一般に門戸は開かれていませんでした。平成に入りようやく私たちも鑑賞することができるようになったのです。

本堂の柱や鴨居を額縁に見立て、庭園鑑賞を楽しむことのできる圓光寺の苔庭は、圧倒的な緑に包まれた絵画を幾重にも見せてくれます。そして散策路から苔庭を眺めるとまた違った表情が見えてきます。“京透かし”と呼ばれる技法を使って整えられた苔庭は、瓜生山を始め周囲の山々まで続くようなおおらかさで私たちを包んでくれます。

この「十牛之庭」は禅の説話「十牛図」を題材に江戸時代に作庭されました。「十牛図」は牧童が禅の悟りに至るまでの道程を表し、懸命に探し求めた悟りは自らの中にあった、という物語です。

この奥深い苔庭は、知らないうちに縮こまっていた心や体を京都の自然に溶け込ませるかのように広げてくれます。その後、正しい心の位置や体に整えてくれる、そんな禅の力を垣間見せてくれるところです。

禅の説話「十牛図」を題材に造られた「十牛之庭」には牛に見立てた大きな石が苔の絨毯の上で静かに鎮座しています。

 

【その四、緑の異世界へトリップ・三千院】

圧倒的な緑の世界が続く、聚碧園(しゅうへきえん)。

最後にご紹介するのは、三千院の聚碧園と有清園(ゆうせいえん)です。

平安の昔、極楽浄土の世界に憧れ、都を離れた隠者が安住の地を求めて住みついたといわれる大原は、都会の時間の進み方とは違う、静かな時を刻んでいます。その大原に位置する三千院は広大な敷地を塀で囲んでいるため、ひとたび御殿門をくぐると、時空を超えたかのような不思議な感覚に陥ります。

もちろん、苔庭も広大で聚碧園と有清園の二つの庭園にまたがり広がっています。また、広いだけではなく、苔アーティストの今田さんにこっそりお話を聞いたところによると、京都の中でも特に苔に力を入れている場所でもあるそうなんです。お話の通り、思わず触れてみたくなる柔らかそうなシラガゴケやこんもりとしたヒノキゴケなどが何層にも重なり、その厚みに悠久の時を感じます。

360度の圧倒的な緑と静寂の空間に身を置き、深く呼吸をするだけで、みるみる心が洗われていくようです。

気持ち良さそうな苔の絨毯の上で微笑むわらべ地蔵(杉村孝・作)。

ご紹介してきた四寺は、たとえば東福寺→常寂光寺→圓光寺→三千院と南から少しずつ北へと向かっていくコースを辿れば、一日で愉しむことができます。また、それぞれの寺院では11月30日までモシュ印/コケ寺リウムの特別展示もされており、それぞれのアーティストの作品からまた違った視点が得られることと思います。

一つ一つに特別感のある感動の苔庭を味わってみてください。

御朱印とモス(苔の英語表記)をかけたモシュ印。クリエイターの杉田悦朗氏がそれぞれの寺院の筆に合わせて抑揚をつけ作成。苔で表現された立体感のある生きた漢字を間近でご覧ください。

最近人気を集めているミニチュアアート・コケテラリウムで各寺院を表現したのが「コケ寺リウム」。苔アーティストの今田 裕(ゆたか)氏がそれぞれの寺院で着想を得て作成。ミニチュアながらも壮大な世界観をお愉しみください。

■東福寺
住所:京都市東山区本町15丁目778
アクセス:JR奈良線「東福寺」下車、徒歩約10分
拝観料金(東福寺本坊庭園):大人400円
http://www.tofukuji.jp/index.html

■常寂光寺
住所:京都市右京区嵯峨小倉山小倉町3
アクセス:JR山陰本線(嵯峨野線)「嵯峨嵐山」下車、徒歩約15分
拝観料金:大人500円
https://www.jojakko-ji.or.jp

■圓光寺
住所:京都市左京区一乗寺小谷町13
アクセス:市バス「一乗寺下り松町」下車、徒歩約10分

拝観料金:大人500円
http://www.enkouji.jp/index.html

■三千院
住所:京都市左京区大原来迎院町540
アクセス:京都バス「大原バス停」下車、徒歩約10分
拝観料金:大人700円
http://www.sanzenin.or.jp

JR東海「そうだ 京都、行こう。」京都“苔”めぐり:
http://souda-kyoto.jp/travelplan/koke_sp/index.html

取材・文/末原美裕
小学館を経て、フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。

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