《6日目》村上 16:13 ~ 鶴岡 17:52

真っ青な海と空を見ながら、クリーム地のボディに赤い帯の入った国鉄色の車輌が走る。

大きく開いた窓から潮の香りも入ってくる。線路のジョイント音はリズミカルなティンパニー。それだけで充分心地よいのだが、村上駅で買った缶ビールがたまらない。寝ちゃイケナイ!いかん!イカン!!と思いつつ、目覚まし代わりに構えたカメラすら落としそうになる。

線路の奏でる音楽をバックに、美景も見たいし美酒にも浸りたい。車窓の酔生夢死。汽車旅至福の快感である。だいたいこんな天気の日に、窓際に酒を置かずしてこんな車輌で旅するなんて、列車にもうしわけない!

ここまでは、車内でいろんな人たちにお話をするのに,酒臭くては申し訳ないと自主規制を続けていたが、もう限界である。

村上駅でこの車輌を見かけたとき、足は自然と改札の外にあるキヨスクへ向かっていた。

列車の乗客は数人。座席はボックスシートの背もたれは直角にそそり立つ伝統的なスタイル。リクライニングは望めないが、豪華列車とはちがう不思議な「ゆとり」や「余裕」を感じられ、開放感がいっそうたまらない。

中学生時代、蒸気機関車を追いかけて北海道を一人旅した頃から、列車の窓は夢の世界だった。もっともその頃に飲んでいたのはファンタオレンジや三ツ矢サイダーだったけど。

羽越本線を走るこの車両は近年、復活塗装されたもの。だが、それでも充分に懐かしい。里山を走るローカル線にこれほど合う色はないだろう。

「寅さん」が旅した列車の大半はこの色調のはずだ。車窓から紺碧の空と海を眺めていると、昭和時代の急行列車で旅しているような気もちになる。

急行色のディーゼルカー、窓から入る、空、海、光、これ以上何を望むというのだ。

そんなことを思ってるうちに,列車はあっという間に鶴岡に到着した。

鶴岡駅のホームには、特別列車「TRAIN SUITE 四季島」乗客用の出入り口やエンブレムがあふれていた。でも個人的には、さっきみたいなディーゼルカーで風を感じる方がいい。

鶴岡の駅から乗り合いのマイクロバスで、平野の真ん中にある民宿へ。夕食に食べた庄内の野菜は、やはり絶品だった。

明日の快晴を約束するように、月山と鳥海山が姿を見せた。

さてこの「青春18きっぷで行ける10日間日本縦断」の旅も、折り返し点を過ぎて6日目が終わった。行程もすでに2/3ほどを駆け抜けた。

ここから先は、乗り継ぎの関係で旅の速度が落ちる。乗り継ぎの悪さは計画的か?と思うほどだが、こういう旅だと待ち時間も楽しくなる。4時間くらいの待ち合わせならどんとこいである。鈍行列車の旅らしく、待ち合わせを楽しんでやろうじゃないか。

明日の予定は五能線を経由して青森駅までの予定である。朝から庄内平野を突っ走る。

<7日目に続く!>

【実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅】
※ 1日目《枕崎駅~熊本駅》
※ 2日目《熊本駅~宮島口駅》
※ 3日目《宮島口駅~名古屋駅》
※ 4日目《名古屋駅〜戸狩野沢駅》
※ 5日目《戸狩野沢温泉駅~只見駅》
※ 6日目《只見駅~鶴岡駅》
※ 7日目《鶴岡駅~ウェスパ椿山駅》
8日目《ウェスパ椿山駅~函館駅》
9日目《函館駅~旭川駅》

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

 

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