文/中井シノブ

京都の夏の風物詩・上七軒ビアガーデンが今年も始まった。

昭和30年頃から続くこのビアガーデンは、毎年7月上旬~9月上旬まで開かれる。上七軒にも近い西陣の旦那衆たちの社交の場として誕生したが、近頃は京都人だけでなく、観光客なども訪れる開かれた憩いの場になった。

芸妓さんや舞妓さんが浴衣姿でもてなしてくれ、一見ではかなわない花街のお座敷の雰囲気を感じられると人気なのだ。

そもそも上七軒は、15世紀の中頃に北野天満宮の一部が消失した際に、修造の残材で東門前に七軒のお茶屋を建てたことが始まりだと伝えられている。

その後、1587年(天正15)に太閤秀吉が北野大茶会を催した折、名物の御手洗団子を献上したところ、秀吉がいたく気に入り、褒美として御手洗団子を商う特権と茶屋株を許したそうだ。そして、京都最古の花街が誕生した。

7月の声を聞き、「今年もそろそろ行かねば」と気が逸る頃に、大阪の友人から「来週あたりどうでしょう」と声がかかった。毎年、気のおけない友人たちと集まれるのも、この夏の行事のおかげなのだろう。

風情ある木造の玄関から池にかかる橋を渡って庭に案内されると、美しい日本庭園に囲まれるようなビアガーデンが登場。五つ団子の紋章が光る提灯や日本髪を結った舞妓さんの姿が見え、まるで時間旅行をしたような気分になる。

歌舞練場の建物自体は、明治の中頃に建てられ、その後増改築を繰り返して、昭和27年に現在の姿になった。現存する木造劇場のなかでも、400席を超える大型劇場は少なく、建築的にも価値を認められている。

テーブルにつくと、芸舞妓さんが席を訪れ、名前を刷った千社札シールを手渡し「おたのもうします」と挨拶してくれる。舞妓さんと話せるのがうれしくて、ついあれこれ質問するのも毎年の恒例。「昔は、このお庭で芸妓さんとダンスをする粋なお客さんもおいやしたそうどすえ」。舞妓さんの優しい花街言葉になごみ、ビールが進むのも毎年のこと(笑)。

冷たいビールのつまみは、枝豆やだし巻のほか、ナポリタンやピザなど洋食メニューも。古き良き時代を体感できる場ではあるが、予約はインターネットでもできると現代的。「秀吉も、茶を供する娘たちに癒されたんだろうなあ~」。暑い京都もまた楽しい、そんな気持ちになれるのだ。

【上七軒歌舞練場ビアガーデン】
■場所: 京都府京都市上京区今出川通七本松西入ル真盛町742
■営業期間:2017年7月1日〜9月5日 ※8月14日〜16日は休み
■営業時間:17時半〜22時 ※入店は17:30/18:00/18:30/20:00/20:30より選択
■料金:2000円〜
■予約電話番号:075-461-0148
※下記のWebサイトからも予約可
http://www.maiko3.com/event/ev-6.htm

文/中井シノブ
京都在住編集者、ライター。京都をこよなく愛し、食べ歩くこと年間350日。『京都女子酒場』『京の一生もん』など京都関連の著書がある。

 

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