加賀温泉郷のひとつ山代(やましろ)温泉は約1300年前の神亀2年(725)、僧・行基が一羽の烏が傷を癒している湧水を見つけたことに始まるという。江戸時代に前田藩の湯治場になり、明治には与謝野鉄幹・晶子 、泉鏡花、北大路魯山人らの文化人が逗留した。
温泉街は共同浴場を中心に旅館や商店が取り囲む「湯の曲輪(がわ)」と呼ばれる空間構造があり、これを踏襲する形で明治時代の総湯(共同浴場)を復元したのが『古総湯(こそうゆ)』である。こけら葺きの屋根が印象的な建物は2階部分が休憩室になっている。1階の浴場は当時流行したステンドグラスや九谷焼のタイルが施され、掛け湯をして湯船に浸かれば、古き良き温泉文化をじっくりと体感できる。
古総湯
石川県加賀市山代温泉18-128
電話:0761・76・0144
営業時間:6時〜22時、12月〜2月は7時〜21時
定休日:第4水曜の午前中
入湯料:500円(4月1日から700円。『界 加賀』宿泊客は無料)
交通:JR加賀温泉駅からタクシーで約10分
加賀の伝統を新しい感性で
宿泊は『古総湯』の裏手にある『界(かい) 加賀』へ。宿の前身は、陶芸家として名を馳せた北大路魯山人が好んで逗留した『白銀屋』で、紅殻格子や赤壁などの建築意匠がある伝統建築棟と茶室は登録有形文化財に指定されている。3月13日には伝統美に囲まれ、街並みを楽しめる新たなラウンジが新設された。
館内で注目すべきは、専用施設としては日本初となる金継ぎ工房があることだ。金継ぎとは、欠けたり割れたりした器を漆や金属粉などを使って修復する伝統技法。この工房では、専門家から指導を受けたスタッフが金継ぎの工程のひとつを手ほどきしてくれる。
宿には大浴場のほか、露天風呂付きの客室もあり、存分に温泉が楽しめる。湯浴みのあとの夕食は、鮑の若布包み蒸しやノドグロの土鍋ご飯などの春の特別会席。味わい深いそれぞれの料理は、九谷焼や山中漆器の地元作家に依頼した独自の器で供される。器と料理の調和に魅了されることだろう。
界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
電話:050・3134・8092(予約センター9時30分〜18時)
チェックイン15時、同アウト12時
料金:1泊2食付きひとり3万1000円〜 48室
交通:JR加賀温泉駅からタクシーで約10分
取材・文/関屋淳子 撮影/藤田修平
※この記事は『サライ』本誌2024年4月号より転載しました。