文・写真/上田紋加(海外書き人クラブ/スペイン在住ライター)
海外でワイナリーに行きたいと思っても、車がないと辿りつけない、遠いので時間が足りないといった理由で、泣く泣く断念したことはありませんか? 運転はしたくないし、短い滞在期間でワイナリーに行きたい! そんな方にお勧めなのが、スペインのバルセロナです。
バルセロナの中心地から中距離列車に揺られておよそ1時間。都心部とは打って変わって、のんびりとした雰囲気が漂う小さな街、サン・サドゥルニ・ダ・ノイアに到着します。この街は、「CAVA(カバ)」と呼ばれるスペイン版スパークリングワインの90%ちかくを生産しているパナデスという自治州に属します。サン・サドゥルニ・ダ・ノイアだけでも、80社以上のカバメーカーがあるといいます。
日本でもお馴染みのカバメーカー「Frexinet(フレシネ)」(https://www.freixenet.es/es)や「Codorníu(コドルニウ)」(https://www.codorniu.com/)の工場もこの街にあり、工場見学と試飲を楽しむことができます。この2社は一番の有名どころではありますが、今回はもう少しだけ「通な」ワイナリーを紹介したいと思います。
カバの上をいく「コルピナット」
訪れたのは、駅の目の前に工場を構えるフレシネを通りすぎ、15分ほど歩いたところにある「Gramona(グラモナ)」(https://www.gramona.com/es/)。ワイナリー見学とテイスティングで2時間35ユーロのツアーに参加しました。
1881年から代々と引き継がれ、現在5代目と6代目が率いるGramonaでは、実は2017年からカバを生産していません。彼らが造っているのは「Corpinnat(コルピナット)」。カバと同様、スパークリングワインであることには変わりありません。違いを簡単にいえば、「コルピナット」と呼ばれるにはカバよりも厳しい基準があるということです。
たとえば、カバはスペインの160の自治体で生産されていますが、コルピナットは、パナデスとその周辺地域でしか生産されていません。というのもコルピナットとは、2017年に「100%有機栽培のブドウを手摘みで収穫し、敷地内でワインを醸造する」パナデスのワインメーカー7社(グラモナも含む)でつくられた、新たな「ブランド」だからです。
上記に加え、カバの熟成期間は15か月ですが、コルピナットは18か月という違いもあります。手間暇かけて作られているので、値段はコルピナットのほうがカバよりも少しお高め。
ワイン造りにおいて環境を配慮するグラモナでは、多くの工程が機械ではなく人間の手でおこなわれています。
たとえば、発酵をさせる際に瓶を斜めにして、澱(おり)が瓶の入り口のほうにたまっていくようにするのですが、職人たちは毎日瓶を時計回りに少しずつ回転させ、何週間もかけて360度回転させるのです。この段階が終わると、溜まった澱の部分だけを捨て、コルクで最終的な蓋をするのですが、その作業も人間の手でおこないます。中身は炭酸なので勢いよく吹き出さないように絶妙な角度と一瞬の動きで、余分な部分だけを捨てていくのです。
また、ブドウ畑の一部は機械を使わず羊に雑草を食べさせているのだとか。
そして、肝心の試飲タイム。赤ワイン(といっても、まるで見た目も味わいもまるで白ワイン)1種類と、2種類のコルピナット、そして1種類のアイスワインを、オリーブやサラミと共にテイスティングしました。大手メーカーに行くと、大抵2種類ほどの試飲を軽くしてすぐに終わってしまう場合も少なくないのですが、グラモナでは1本1本丁寧に説明してくれて、4種類もお試しできるので、満足度は高いと思います。
もちろん、バルセロナ市内には数えきれないくらいのレストランやバルがあるので、わざわざ郊外にでなくてもカバ(もしくはコルピナット)は楽しめます。けれど都会の喧騒から離れてみるのもいいでしょう。旅の初心者でも気軽に行けるサン・サドゥルニ・ダ・ノイアで、本場の味をのんびりと楽しんでみてはいかがでしょうか。
Gramona
住所:Carrer Indústria 36,
Sant Sadurní d’Anoia
Webサイト: www.gramona.com
文・写真/上田紋加(スペイン在住ライター)
スペイン・バルセロナ在住。編集者、ライター。2017年から、バルセロナを拠点に日本メディアでカルチャー、グルメ、ライフスタイルを中心に執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。