文・写真/佐知ゆりこ(海外書き人クラブ/カナダ在住ライター)

人々の渇きを爽快に癒し、日々の疲れを癒してくれる大人の飲み物、といえばビールだろう。中でも、厳選された材料を用いユニークで奥深い味わいのクラフトビールは、違いのわかる大人たちを魅了してやまない。

世界各地にクラフトビールが盛んな場所はあるが、生産量が法律で制限されているなどその地域に行かないと見つけることすらできないものも少なくない。今回は、希少で贅沢なクラフトビールを存分に楽しめるマイクロブルワリー(小規模醸造所)の聖地、カナダの古都ビクトリアをご紹介したい。

美しき古都は「クラフトビール天国」だった!

日本から約8時間50分のフライトで到着するカナダの玄関口、バンクーバーからさらに空路で40分、「バンクーバー島」の南端に位置する美しき港町ビクトリアは、知る人ぞ知る個性派マイクロブルワリー(小規模醸造所)の宝庫だ。

「英国よりも英国らしい」と称される景観を誇る、歴史的建築物が立ち並ぶ古都ビクトリア。実は意外なクラフトビールの歴史を持つ。

カナダ西端に位置するブリティッシュコロンビア州は、カナダのクラフトビール発祥の地。そして、カナダ初のクラフトビール醸造所の所有者がオープンさせた「クラフトビールの聖地」と呼ぶに相応しい店があるのが、この離れ小島の美しき港町、ビクトリアなのだ。

ビクトリア市は東京都渋谷区2つ分程度の小さな街だが、その繁華街を中心に20を超えるマイクロブルワリーが点在している。徒歩でいくつかのマイクロブルワリーをはしごすることもでき、数々の個性派ビールを飲み比べることができる街だ。旅先で美味しいビールが飲みたい、いや「逸品クラフトビールに巡り合うために旅したい」。そんな人のためのクラフトビール・スポットをご紹介したい。

カナダ初の醸造所併設レストラン、聖地「スピンネーカーズ」

クラフトビール愛好家の聖地、「Spinnakers Gastro Brewpub(スピンネーカーズ・ガストロ・ブルーパブ)」は、繁華街の中心地から2km少し離れた閑静な住宅街にある店。この店こそが、カナダで初めての「ブルーパブ」だ。

「ブルーパブ(Brew Pub)」とは、「ブルー(Brew:醸造)」設備を持つ「パブ(Pub:酒場)」のことで、オリジナルのビールを醸造しその場で提供する飲食店のこと。この「スピンネーカーズ」が開業した1980年初頭、カナダのビール市場は大手ビール会社3社によって支配されていたのだが、「スピンネーカーズ」の創業者は、副原料の多い量産型ビールに対抗した高品質なクラフトビールによって新たなマーケットを開拓すべく、パブ(酒場)に自前の醸造所を併設させ新鮮でオリジナリティあふれるビールを客に提供する「ブルーパブ」というビジネスモデルを考案。当時は醸造と提供を同一の建物で行うことが法律で禁じられていたため幾多の困難があったが、行政との交渉と法改正を経て開業。カナダのビール産業に新たな風穴を開け、現在のクラフトビール発展の礎となった、という歴史を持つ。

カナダ初のブルーパブ(醸造所併設飲食店)は、閑静な入り江のそばにひっそりと存在する。この穴場的な雰囲気がまたいい。

ウッディでクラシカルな店内は広々としており、客席は1階と2階にある。温かみのあるインテリアは、初めて来た人でも常連気分にさせてくれる心地よさがある。

開放的な大きな窓は海に面し、明るい光が差し込む。客席の間隔も程よく居心地がいい。

「スピンネーカーズ」では、ビールはだいたい常時20~25種類ほどを提供している。ビールの種類は4つにジャンル分けされ、「Lighter Lagers and Ales(軽めのラガーとエール)」、「Hoppy Brews(ホップの苦みが特徴のビール)」、「Amber and Dark Brews(豊かなボディの色の濃いビール)」、「Barrel Aged and Sour Beers(樽発酵ビールと酸味が特徴のビール)」のそれぞれに5~6種類がラインナップ。それらのビールに加え「Spinnakers Ciders(リンゴの発泡酒)」が3種類、他に数種類の「Spinnakers Spirits(蒸留酒)」、加えてカクテルやノンアルコールドリンクなども提供する。店内には壁一面のワインセラーもあり、ワインの種類も豊富だ。

各クラフトビールのメニューには、アルコール度数とともに「IBU」の記載がある。「IBU」とは「International Bitter Unit」の略語でビールの苦みを数値化した単位のことだ。この値を参考に好みのビールを選ぶことができる。

「IBU」は数値が大きいほど苦みが強くなる。軽く飲みやすいもので「8~10」、ビターと名の付く種類のもので「40~80」などだ。

せっかくだからいろいろなクラフトビールを味わいたい、という向きには「Flight of Four(4種飲み比べセット)」が魅力的だ。「Flight」とは飲料業界で飲み比べセットのことを示す言葉で、メニューの中から好きな4種を選ぶことができる。お店のスタッフに「おすすめで」と注文してもいい。

5オンス(約150ml)ずつ4種類が味わえる「飲み比べセット」。左から「Mac Attack(地元産のリンゴから作ったドライなシードル)」、「Nut Brown Ale(香ばしく芳醇な黒ビール)」、「Yacht Rock (Hazy)(ホップ感強めのにごりビール)」、「Aunt Bab’s Favorite(軽めで飲みやすい万人受けビール)」。

フードメニューも充実しているため食事時に訪れても満足できる。すべてのビールは5オンス(約150ml)から注文でき、明るい時間のちょい飲みにもちょうどいいサイズだ。

フードは地元の厳選の食材を使用。ナチュラルで誠実な味わいだ。サンドイッチ以外にも充実した食事メニューが用意され昼食や夕食時に訪れるのもいい。

なお、この店は正式名称を「Spinnakers Gastro Brewpub & Guesthouses」といい、三ツ星ホテルも併設されている。思う存分にビールと食事を味わい、心地よい酔いを抱えたまま眠りにつける、というのもなかなかよさそうだ。

マイクロブルワリーの味を持ち帰り。缶ビールも「レアもの」ぞろい

「スピンネーカーズ」は比較的大きな店だが、ダウンタウン(繁華街)には小さな個性派ブルーパブがいくつもある。迫力のステンレスタンクを眺めながら飲める店、自家製のビーフジャーキー自慢の店、女性に人気の爽やかなフルーツビールを提供する店、遊び心あふれるビールのネーミングが楽しい店など、それぞれがユニークだ。また、少し足を伸ばして郊外に出れば、雄大なカナダの自然を感じながら絶品クラフトビールを味わえるブルワリーや、果樹園に併設したサイダリー(リンゴの発泡酒を専門とする施設)などもある。

そしてそれらの個性派クラフトビールの一部は、街の酒屋で缶ビールとして買うこともできる。そのバリエーションの豊富さと缶デザインの美しさは特筆ものだ。

見たことのない缶ビールがズラリ。ほとんどがバンクーバー島やブリティッシュコロンビア州のクラフトビールで、州外に出ないものも多いという。

カナダのバンクーバー島ビクトリアは、美しい自然や英国風の街並みだけでなく、クラフトビール好きにはたまらない魅力あふれる街。ここでしか出会えない運命の逸品を見つけに、「クラフトビールの聖地・ビクトリア」を訪れてみてはいかがだろうか。

Spinnakers Gastro Brewpub & Guesthouses
308 Catherine St, Victoria, BC V9A 3S8
https://www.spinnakers.com/

文・写真/佐知ゆりこ(カナダ在住ライター)
教育移住や海外文化、多様な女性の生き方について雑誌やWebメディアで執筆。noteやTwitterでも情報を発信。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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