文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/ドイツ在住ライター)

バッハ、シューマン、メンデルスゾーン、ワーグナーといった偉大な音楽家が活躍し、クラシックの聖地となったライプツィヒ。街を歩けば今もあちらこちらで音楽家たちの息吹が感じられる。2018年には音楽ゆかりのスポットを結んだ「音楽軌道」が欧州文化遺産に登録。ますます注目を集めている音楽の都をご案内しよう。

偉大な音楽家たちにあえる巡礼路

ライプツィヒ音楽軌道の目印となる銀色のプレート。

ライプツィヒの街を歩いていると、道路に埋め込まれた銀色のプレートをいたるところで目にする。これは音楽の演奏記号を表したもので、市内の音楽ゆかりのスポットを結んだルート「ライプツィヒ音楽軌道(Leipziger Notenspur)」に埋め込まれた道しるべ。ルート上には音楽家たちが住んだ家や博物館など20以上の音楽史跡があるが、このプレートをたどって行けば迷うことなく効率よくまわれるというわけだ。各スポットには解説パネルが設置され、アプリを使ったデジタルガイドも提供されている。

アウグストゥス広場に向かう目印。プレートの先にはコンサートホール「ゲヴァントハウス」が建つ。

2012年に音楽関係者が発起人となり始まったこのプロジェクトは、市の行政や音楽関係の団体のほか、多くのボランティアの協力を得て活動が続けられてきた。当初はユネスコ世界遺産登録を目指した活動が行われていたが、EUの「欧州文化遺産」の基準が新たに設定されたことから、2014年にそちらに目標が変更されることになったという。2018年の3月24日、ライプツィヒ音楽軌道は市内の9つの音楽遺産とともにめでたく欧州文化遺産に認定され、国内外から注目を集めることとなった。

この音楽軌道のなかから、クラシックファンならずとも見逃せない名所を厳選してご紹介しよう。

バッハが眠るトーマス教会

トーマス教会内にあるバッハの墓。ファンからの花束が飾られている。

音楽都市ライプツィヒは、ヨハン・セバスティアン・バッハ抜きには語れない。バッハは1723年から亡くなる1750年までの間、トーマス教会のオルガン奏者兼少年合唱団の音楽監督を務め、『マタイ受難曲』他数々の名曲を生み出した。祭壇前にある彼の墓には世界中からファンが訪れ、花が絶えることがない。ここでは毎週、教会少年合唱団のコンサートが行われており、清らかな歌声を聴くことができる。オルガンコンサートも人気だ。

鮮やかなステンドグラスのなかにバッハの肖像を発見。

トーマス教会は、ライプツィヒで生まれたリヒャルト・ワーグナーが洗礼を受け、宗教改革を行ったマルティン・ルターが説教を行ったことでも知られる。美しいステンドグラスのなかにはバッハやルター、メンデルスゾーンも描かれているのでじっくり見てみよう。トーマス教会の前にあるバッハ博物館も見逃せない。コロナ禍以前は訪問者の約1割が日本人だったということから、日本でのバッハ人気の高さがうかがえる。

バッハ復活の立役者、メンデルスゾーンの家

家具や調度品、楽器など当時の様子が再現され、一家の生活ぶりがうかがえる。

ライプツィヒが誇る偉大な音楽家のひとり、フェリックス・メンデルスゾーン。38歳という若さで亡くなってしまったが、バッハ作品復活の重要なきっかけをつくり、ドイツ最古の音楽学校「フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽学校」の基礎となる「ライプツィヒ音楽院」を設立するなど、音楽界に多大な功績を残している。彼がバッハの死後に「マタイ受難曲」を復活上演し成功させたことが、ドイツとヨーロッパにおけるバッハの再評価につながったといわれている。

タクトを振るとスピーカーが演奏を始める。楽器やテンポ、ライティングなども選択可能。

彼が1845年から亡くなる1847年まで住んだ家は、博物館「メンデルスゾーンハウス」として運営されている。視聴覚室ではメンデルスゾーンの曲を聴けるだけでなく、タクトを振って指揮者気分が味わえるなど、五感を使って楽しむことができる。2階では、一家が暮らしていた当時の様子を再現。彼の人柄が感じられるような穏やかな空間に、自筆の楽譜や使っていた文具のほか、デスマスクも展示されている。趣味で描いていたという水彩画の上手さには驚かされた。メンデルスゾーンは幼い頃から神童と評判で、多才な人物だったそうだ。

デスマスクや遺髪も展示されている。

奥には50席ほどのサロンがあり、毎週日曜日にコンサートが開かれる。私が訪れた2022年8月某日は例年にない猛暑だったのだが、ピアニストの方は吹き出す汗をぬぐいながら素晴らしい演奏を聴かせてくださった。生前メンデルスゾーンが開いていた日曜音楽サロンには、シューマンやワーグナーも訪れたという。彼に招かれたゲストのひとりになったような、なんとも贅沢な体験だった。

音楽の都の顔となる劇場広場

ゲヴァントハウス(左)。隣の高層ビルは眺望が自慢のパノラマタワー。

町の中心となるアウグストゥス広場には、歴史的にも音楽的にも重要なスポットがいくつも集まっている。音楽都市ライプツィヒのシンボルともいえるゲヴァントハウスは、ゲヴァントハウス管弦楽団の本拠地として1981年に建てられたコンサートホール。1743年に発足したゲヴァントハウス管弦楽団は、世界で初めての民間オーケストラだ。それまで貴族など特別階級層のものだったコンサートを誰もが楽しめるようになり、市民にとって音楽がぐっと身近なものになった。かつてメンデルスゾーンが楽長を務めたこともあり、現在では世界最高峰のオーケストラとして名高い。日本でも盛んな大晦日の第九演奏は、1918年にここで行われた演奏が起源だといわれている。

ライプツィヒ歌劇場。ワーグナー作品の上演で知られる。

ゲヴァントハウスの向かいに建つのはライプツィヒ歌劇場。1693年に創設されたヨーロッパ最古の市民オペラハウスのひとつで、現在の建物は第二次世界大戦で全壊後に再建された。上演の際の演奏は、ゲヴァントハウス管弦楽団が務めるのが伝統となっている。

クラシック音楽やオペラというと、敷居が高いイメージを持つ人も多いかもしれない。私もドイツに来る前はそうだったので、この国ではとても身近な存在だということに驚いた。世界のオペラの3分の1が上演されているというドイツでは、演目が多種多様で、何よりチケットが安いのが庶民としては嬉しい。初心者でも気軽に楽しめるので、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。なかでもライプツィヒは、音楽を体験し、感じるには絶好の町だ。

ドイツ観光局:https://www.germany.travel/en/campaign/german-local-culture-jp/home.html
ライプツィヒ観光局:https://www.leipzig.travel/

文・写真/坪井由美子 ドイツ在住ライター。旅行、グルメ、文化などの分野において新聞、雑誌、ウェブ媒体で執筆。レシピ連載や食のリサーチも手掛ける食いしん坊。2020年『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)出版。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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