「京都」と聞いて、どの様な風景や場所を思い浮かべるでしょう。
多くの場合、人気の観光スポットや、その場所を訪れた時の思い出なのかもしれませんね。しかし、それは、ある意味共通した誰しもが経験できる「京都」ということになるのではないでしょうか?
以前に比べると、すっかり落ち着きを取り戻した京都ですが、再び京都を訪れるとき、これまでとは違う京都を体験したり観てみたいとは思いませんか?
その為にも、改めて「京都の奥深さ」や「京都の歴史」を知ることで、あなたが「観るべき京都」「観たい京都」「体験したい京都」が在ることを理解していただけるのではないでしょうか。
そこで、サライ京都チャンネル「京都の奥義」では、あなたがまだ見たことのない「襖の奥」にある京都をご紹介いたします。
今や日本の着物というと、日本人よりも外国の人から衆目を集め、その魅力が深く理解され、愛されているような感じさえします。そんな着物の一大生産地が京都西陣です。
「西陣織」は、京都を代表する伝統地場産業であり、かつては花形産業として持て囃された時代もありました。
しかし、残念ながら現在は“衰退産業”の象徴のように見られる向きもあります…。そんな衰退著しい京都西陣にあって、海外の有名ブランドから密かに注目されるテキスタイル(織物)を作り出す製織メーカーがあります。それが、今回ご紹介する創作工藝織物製造 綵巧(さいこう)です。
機械と人との数奇な出会い、そこに物語がある
創作工藝織物製造 綵巧(さいこう)は、「大型環状織機」と呼ばれる特殊な織機を所有しています。この「大型環状織機」は、この世に綵巧が所有する2台しか存在せず、世界的に見ても大変貴重な織機です。
そうした貴重な織機が生まれた経緯や、衰退する日本の繊維産業にあって、現在に至るまで生き残り現役稼働している理由を知れば、そこには人間と機械の数奇な出会いと物語がありました。
そのことを語る生き証人が、室門恒明(むろかど・つねあき)氏(75歳)です。
室門氏が「大型環状織機」と出会ったのは、もう30年以上も昔のこと。当時を思い出して次のように語られました。
「最初は、大型環状織機が織る生地に魅了され、その生地の特徴を生かした帯や和装品の製造販売を手掛けていたのですが、大型環状織機を所有していた人が突然病気で亡くなり、その奥さんから織機の面倒を見て欲しいと懇願されたのがきっかけでした」
それから、機械のことなど全く知識のない室門氏は、織機に詳しい人を探し訪ね、招いて指導を受け徐々に技術と知識を修得したそうです。
「大型環状織機」とはもう40年以上もの付き合いとなり、今では音を聞いただけで調子の良し悪しが分かるといいます。
有名ブランドのデザイナーをも魅了する織物の秘密
大型環状織機は昭和40年代に6台が群馬県桐生市で製造されました。大型であるが故に保守や修理などに莫大な費用を要することもあり、着物産業が衰退するのに合わせて廃棄されていきました。
しかし、室門氏は度々故障し老朽化する織機を粘り強く修理・修繕を重ね、丁寧にメンテナンスをして大切に使ってきました。そうした努力が実り、世界の有名ブランドのデザイナーからも注目されるまでになっています。
近年、大型環状織機が織りなす「三軸組織」は、各方面から高く評価されるようになり「日本和文化グランプリ・優秀賞(2021年度)」などの受賞をしております。
***
何か商品を購入しようとする際、見た目の美しさや、使いやすさ、機能面やデザイン性、あるいは値段が重要視され、その製品がどんな過程を経て生まれるのかなど気に掛ける人は稀でしょう。ましてや、誰がどのように作ったかなどは知る由もないことです。
しかし、購入しようとする商品の生産過程や生産者を知ることで、その製品が全く違った魅力を放ちはじめ、購入する人に別の価値をもたらすことも珍しいことではありません。
「やっぱり日本製はいい」とか、「職人の手仕事は素晴らしい」などを実感する瞬間ではないでしょうか?
次に京都を訪れ、何か素敵な商品を見つけられた折には、その商品の生産過程や生産者へ思いを寄せていただくことで新たな京都との出会いがあるのではないでしょうか?
■創作工藝織物製造 綵巧(さいこう)
本社所在地:京都市北区平野宮本町85
※一般の方の工場内への立ち入り、大型環状織機等の撮影は禁止となっております。
http://nishijinori-saiko.jp
企画・動画・編集/貝阿彌俊彦(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)